御神楽




師走の晴れた冬の日、悟空は小鬼と一緒に神域の山麓にある森の奥に来ていた。
所々に昨日降った雪が解けずに残っている。

そんな森の中を森の入り口で見つけた野ウサギを追いかけて悟空は小鬼と駆け回っていた。
そうして、夢中で走り回るうちに、不意に森が開けた場所に出た。

「…あ」

そこに広がったのは、色とりどりの花の咲く花畑だった。
赤、白、黄色、見たことのある花、見たことのない花、とりどり。

それに誘われるように悟空は花畑の中へ足を踏み入れた。
小鬼と一緒に辺りを見回しながら進む。
その先で白い姿が舞を舞っていた。

「うわぁ」

日差しを浴びて舞う白い衣装が、近づけばまるで虹をまとっているように色が変わる。
柔らかな裾が翻り、薄絹が風に踊って。

綺麗なものが大好きな悟空を魅了した。



じっと舞を見ている悟空に気付いた舞い手が、舞を止めて声をかけた。

「何だい?坊や」

問われた悟空はきょとんとした顔で、声を掛けてきた者を振り返った。

「おや、坊やは金蝉の所の坊やかい?」

言われて、悟空は小首を傾げた。
その様子に同じように小首をかしげた後、吐息を一つこぼし、笑った。

「そうかい、まあ…いいさね。で、何か用かい?」

問われて、

「きれーなの」

と、悟空は笑った。

「私がかい?」

自分を指さしてまた、その人は問うた。
その問いに精一杯頷いて、

「きれーなの」

と、もう一度告げた。

「嬉しいねぇ」

その人はそれは嬉しそうに笑った。
そして、

「褒めてくれた坊やのために舞おうかね」

そう言って、舞い始めの型を持って構えた。

「―――いくよ」

ふわりと、白い着物が差し出される手に添うように揺れ、翻る。
明るい日差しの中、悟空の目の前で舞う白い姿がまた、虹をまとっているように色が変わった。

「きらきらしてるー」

舞ながら悟空の声を聞いたその人の表情は柔らかく笑みほころんだのだった。






 

夜、悟空は床の上でくるくると小鬼と一緒に踊った。

「きらきらー」

言いながらくるくると回る。

昼間、森で見たとりどりの花と虹色を振りまいて舞う舞い手。
手が返ればきらきらと七色の光と色が溢れ、くるりと身体を回せばまた、光と色が周囲を染めた。
本当に綺麗だった。
だから、

「こぉに、ほらきらきらぁー」

くるりと回って手をひらひらさせ、あの光と色が溢れるまねをする。
悟空の手に合わせて小鬼もくるくると回る。

夕餉を食べる間も湯殿で湯を浴びる間もずっと、虹をまとって舞う舞い手の話をしていた。

そして、もう寝る時間だと言うのに、一向に悟空の興奮は冷めないようだった。

「さんぞ、きらきらしてて、いろんな色が見えてくるくる変わってぇー回るの」
「そうか」
「うん!きらきらなの――うわっ!」

くるくると回っていた足が、袿に躓いて三蔵の上に落ちてきた。
それを潮時として、三蔵は受け止めた小さな身体を褥にそのまま横たえた。

「さんぞー」
「わかったからいい加減にして寝ろ。あとは明日だ」

言えば、

「あした?」
「そうだ。明日、だ」
「うん、ぁ…した…」

繰り返し念を押しながら寝入ってしまった。


 

冬の日に出会った不思議―――




御神楽(おかぐら):上古より伝わる歌舞。宮中では十二月吉日に奏せられる。

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