虎斑木莵




雪の中に丸くうずくまっていた鳥を悟空と小鬼は拾った。

自分の身体と大差ない大きさの鳥を抱えて庵に戻ってきた。
その雪まみれの姿に呆れ、抱える鳥に頭を三蔵は抱えた。
取り敢えず、鳥を廂に置かせ、小鬼と一緒に悟空を湯戸に押し込んで三蔵は鳥の様子を見に戻った。

「みみずくか」

悟空が拾ってきた木菟は、頭部から背面の羽毛は灰褐色で、褐色の縦縞が入っていた。
腹側は黄褐色で、黒褐色の縦縞が入っている。
三蔵を見つめてくる虹彩はオレンジ色をして、外耳状の羽毛が震えていた。

「とらふずくだったか…」

鳥の様子を見つめていれば、みみずくは片方の翼を広げたままでいた。

「翼か」

治療道具を棚から出して戻ると、湯殿から濡れたまま出てきた悟空と小鬼がみみずくの傍に座っていた。

「さんぞ、治るの?」

三蔵の姿を見るなり駆け寄ってくる。

「こら、身体を拭け、着物を着ろ」

治療道具を置き、三蔵は悟空を湯上がり布でくるむと大急ぎで身体を拭き、着物を着せた。
その傍で小鬼も同じように身体を拭いていた。

「ねえ、ねえ、鳥さんのケガ、治る?」

悟空を離し、みみずくのケガの治療を始めた三蔵の手元を見ながら悟空が訊いてくる。

「大丈夫だ。大したケガじゃなねぇからすぐに治る」
「ホント?」
「ああ」

頷いてやれば、安心したように笑った。




翌日から悟空は甲斐甲斐しくみみずくの世話を始めた。

小鬼と二人エサを採って来ては与え、ずっと傍にいる。
みみずくは、じっと自分の傍で様子を見つめている悟空をそのオレンジの瞳で見つめていた。
何か言いたそうにしているように見えて悟空は小首をかしげた。

「えっと…何?」

ぺたんとみみずくの前に座って話しかけるのへみみずくも悟空と同じように首をかしげる。

「うーんと…何か言ってる気がするのにわかんない」

薬を張り替える三蔵に言ってるつもりなのか、みみずくに言ってるつもりなのか。
問われても三蔵にわかるはずもない。

「わかんない」
「そうか――ほら、出来た」

薬の張り替えを終え、痛めている翼に負担にならないように籐籠に横たえる。

「治るまで動かすなよ」

悟空とみみずくに言うと、三蔵は部屋を出て行った。



みみずくは悟空の採ってくる生き餌をよく食べた。
その食欲が良かったのか、三蔵の傷の手当てが良かったのか、意外に早くみみずくの傷は癒えた。
みみずくが療養している間、何度も悟空とみみずくが見つめ合っては、

「わかんない…」

と、お互いに首をかしげている姿を見かけた。
みみずくが悟空に何か伝えたいようだったが、悟空には一向に通じない様子だと、傍にいる三蔵には見えていた。



やがて傷の癒えたみみずくを森へ返す日が来た。

悟空と三蔵、小鬼の三人は、悟空がみみずくを見つけた場所まで来ていた。

「ここなのー」

雪の積もった中に立ち、三人は傍の木を見上げた。
その木に向かって三蔵がみみずくを離すと、みみずくは、数度、翼をはためかせて目の前の木に飛び移った。

「元気でねぇ。いつかちゃんとお話しよーね」

そう言って手を振る悟空にみみずくは頷いたように見えた。


本当にそのうち神域に棲むもの達と話しをするかも知れないと、三蔵はみみずくに手を振る悟空の姿を見つめながら、ふと、そんな事を想うのだった。




虎斑木莵(とらふずく):みみずくの一種。

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