鬼 灯




 

神域の中、三蔵と薬草採りに出た悟空は、ホオズキの実を見つけた。
熟して橙色になったその実の形と色が気に入ったのか、三蔵がその根を掘り起こすと、一目散に実を小鬼と一緒に茎からちぎって持たされていた籠に詰め込んだ。
その様子に、三蔵は呆れたが、捨てろとは言わなかった。



一通り必要な薬草を採り、悟空はホオズキのみの入った籠を抱えて、庵に戻ってきた。

「さんぞー赤いのぉ」

井戸端で薬草を洗い、簀の子に引いた筵に並べている三蔵の傍で、籠をひっくり返してホオズキの実を簀の子に広げた。

「赤くてきれーなの」

広げた赤いホオズキの実を眺めて満足そうに笑う。
その様子を見ながら三蔵は、作業を続けた。
その間も悟空は小鬼と一子に簀の子に広げたホオズキの実を飽かず眺め、時折それに触れていた。
作業を終えた三蔵は、籠を片付けながらふと、幼い頃、ホオズキの実で遊んだことを思い出した。

「一個かせ」
「?!」

そう言って、傍のホオズキの実を一つ取ると、その外側を被う袋を剥いた。
中には悟空が遊ぶガラス玉ほどの橙色の実があった。

「きれー」

その実の色に悟空は感嘆の声を上げ、三蔵と同じように実の袋を剥いた。

「いっしょぉ」

三蔵は何も言わず、その実をつまんでゆっくりと揉み始めた。
悟空もまねをしようとしたが、それより三蔵がすることが気になるのか、手元をじっと覗き込んでくる。
好奇心に染まった視線を浴びながら三蔵はホオズキの実をゆっくりと揉んで柔らかくし、そっと実を外した。

「何?なにになるの?」

立って厨に行くと、桶に水を汲み、その中で柔らかくしたホオズキの実の中身を洗い出した。

「ぺっちゃんこだ」

中身のなくなったホオズキの実の水気を軽く振って落とすと、三蔵はその実に息を吹き入れ丸く膨らますと口に含んだ。

「食べるのぉ?」

違うと首を振った後、ぎゅうぎゅうと何かの鳴き声のような、何かを握るような不思議な音が聞こえた。

「ほぇ?」

不思議そうに辺りを見回した後、三蔵の口元から聞こえることに気付いた悟空は、三蔵の膝によじ登ると、その頬を叩いた。
その要求に応じて口を開けてやる。

「ほーずきー」

三蔵の口に指を突っ込もうとするから、

「わかった。わかったからちょっと待て」

もう一つホオズキの実を手に取り、また、同じようにして、悟空にも作ってやった。

「ほら、口開けろ」
「うん!」

大きく開けた口にホオズキを入れてやる。
悟空は嬉しそうに口の中でホオズキの実を噛んだ。
けれど、三蔵が鳴らしたような音は出ない。

「むぅ…」

鳴らないと、口を尖らすのへ、

「こう…やって」

舌と歯とを使うのだと教えてもすぐに出来るわけではない。

「コツがいるからな、そのうち出来るようになるさ」

そう言って、悪戦苦闘する悟空の頭を撫で、三蔵は後片付けを始めた。
悟空は口をへの字に曲げて三蔵を見ていたが、鳴らないのが悔しいのか、またもぎゅもぎゅと,ホオズキの実を鳴らす練習を始めたのだった




鬼 灯(ほおずき):初秋に赤い実をつける。

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