井戸浚




 

夏のある日、三蔵はその妖力を惜しげもなくふるっていた。
滅多にみない三蔵の姿に最初、不思議そうな顔をしていた悟空だったが、三蔵が行うあれこれにやがて夢中になっていった。



井戸の中から水が吹き上がり、井戸の上で巨大な水の固まりになる。
それはそのまま巨大な水の珠になったまま、宙に浮いていた。

「大きいのぉ」

届かない位置に浮いている水を触ろうと背伸びをしながら、悟空は小鬼と歓声を上げている。

その様子を後に、三蔵はひらりと井戸の中へ飛び降りた。
水の湧き出す地下水脈の口を止めて、井戸の底に溜まった汚れを掻き出していく。
汚れも妖力を使って掻き出し、井戸の外へ放り出した。

「うわぁーい」

井戸の外では悟空が、丸い固まりになって井戸から飛び出してくる汚れの固まりを除けながら小鬼と走り回っている声が聞こえた。


やがて、粗方綺麗になったのを確認して、三蔵は止めていた地下水脈の口を解放した。
ゆっくりと増えて来る水に触れ、井戸の外へ出る自分について来るように手を振ると、井戸の外へ出た。
降り立つ三蔵の後を追うように水が渦を巻いて勢いよく吹き上がった。

夏の日差しに水滴が跳ねて、きらきらと光をまき散らし、眩しい。

悟空は吹き上がる水の飛沫を浴びて小鬼と二人、きゃあきゃあと大騒ぎだ。
三蔵は吹き上がる水を操って、ついでに庭や周囲の草木に撒いた。

「すごーい!すずしいー水まきぃ!」

庭に撒かれる水を追いかけ、三蔵の動きをまねながら悟空が笑う。
そうして、一通り井戸の中を洗い終えた三蔵は、最初に汲み上げておいた水を井戸の中へ戻した。

「よし、綺麗になった」

ふうと、一息こぼし、悟空達を呼んだ。

「さんぞー気持ちいいよぉ」

呼ばれて走ってきた悟空は、頭から水を被ったようにずぶ濡れになっていた。

「冷たいのー」

そう言って笑うから、もう少し水遊びに付き合ってやるかと、また、水を呼んでやったのだった。




井戸浚(いどざらえ):夏に井戸を汲み干し清掃して、きれいな水がよく湧き出るようにすること。

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