捨子花




 

「燃えてるみたいだねぇ」

野原の端、道の畦に赤い炎のような花が咲いていた。
色づき始めた木々の間に咲くその赤い花を悟空は、小鬼と一緒に眺めていた。




夕餉の時、

「あのねぇ…赤い燃えてるみたいな花が咲いてたの。でね、触ったら冷たくて、お花だったの」

それでね、と、食事の途中で席を立ち、悟空は外へ出て行く。

「おい」

三蔵もはしを置いて、子供の後を追った。

「悟空」

追えば悟空は井戸端の水桶に置いてある燃えているような花――曼珠沙華の花を取りにきたのだった。

「これ」

水桶の花を指さして、

「あのね、さんぞーにも見せたかったの。だから持って帰ってきたの」

笑うから、

「そうか。ありがとうな」

頷いて、礼を言ったのだった。




夜、悟空が眠った後、三蔵は花瓶に生けた曼珠沙華の花を見つめながら、盃を傾けていた。

そう言えば、悟空を拾ったあの日、赤子の周囲は曼珠沙華の花で被われていたような気がする。
この赤い炎のような花ではなく、純白の曼珠沙華だった。

それはまるで赤子を守るようにも見えた気がした。

この赤子は神域の落胤(おとしだね)だと神域が、大地が告げているようにも見えたのを思い出す。
今更、悟空が人の子であってもなくても三蔵にとってかけがえのない存在であることには間違いない。
その宝が、住まう神域に、大地に、自然に愛されていることに何の不服もないのだ。

「平穏な生活を…」

曼珠沙華の花に向かってそう呟くと、盃の酒を呷ったのだった。




捨子花(すてごばな):曼珠沙華の異称。秋の彼岸に急に咲き出でる。

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