火 魚
火の手が上がった。
里で市が立った。 三蔵は悟空を拾う前は、市が立とうが、何があろうが、興味をあまり引かれることはなかった。 「行きたいのー市に行きたいー」 里に出かけたとき、一緒に遊ぶ子供から聞いてからずっとこの調子だ。 「わかったから」 根負けして頷かざるを得ない三蔵だった。
様々な品々に目移りしながら、悟空は三蔵に連れられて市見物にきていた。 「あれ、なぁに?」 そぞろ歩く三蔵の腕の中から、目に映る物一つ一つについて訊ねるのへ、三蔵は眉間のしわを深くしつつも、邪険にすることなく問いかけに答えてやっていた。 「火事だーっ!」 不意に声が上がった。 「さんぞ…」 その火の大きさに一瞬人々は動きを止め、やがて右往左往逃げ惑い始めた。 「さんぞ…火……」 ぎゅっと、三蔵にしがみつく。 「大丈夫だ」 三蔵は悟空を抱き直すと、風に乗って燃え上がるそのすぐ近くへ舞い降りた。 「……燃えちゃう、の…?」 言うなり、三蔵の身体から妖力が吹き上がった。 「――水よ…」 空いた片方の手を上げ、後方から差し招くように腕を振った。 「もう消えた?もう大丈夫?みんな熱くない?」 三蔵の腕の中で悟空が問うのへ、 「ああ、もう熱くねえだろ?」 言えば、 「うん!」 頷く笑顔が返ったのだった。
火事の原因は商人の不注意だった。 火事の突然の鎮火に関しては、里人が旨く言い訳をしてくれたらしいと、三蔵は後になって知るのだった。
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火 魚(ひうお):硬骨魚目ホウボウ科の海魚。体は美しい赤色。 |