四迷忌
面白いから読めと言われて渡された読み本。 元来、読書は好きだったので、押しつけられたせよ、本が読めるのは嬉しいことだった。 「たいくつなのー」 本を読む三蔵の膝によじ登って顔を覗き込んでくる。 「おい」 顔を上げれば、まろい頬を膨らませた子供の顔が飛び込んできた。 「あのね、たいくつなのー」 だから、遊べと言う。 「悟空」 呼べば、遊んでくれるのかと期待に満ちた瞳が返ってくる。 「ちょっと待ってろ」 本と悟空を残し、三蔵は塗籠に入り、幾冊かの本を持って戻って来た。 「ほら、これでも読んでろ」 そう言って、悟空に手渡す。 「きれー」 その様子を見ながら、三蔵は悟空の傍らに腰を下ろし、また、本を読み始めた。
ふと、静かなことに気付いて傍らを見やれば、本を抱くようにして悟空は眠っていた。
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四迷忌(しめいき):五月十日、二葉亭四迷の忌日。 |