烏 蛇
真っ黒な蛇が身体に似合わない大きさの蛙を呑み込んでいるのを悟空は見つけた。 「大きな口…」 ゆっくりと頭から呑み込んでいく様子を飽かず見つめ、蛙を呑み込んだあと、腹が異様な形にふくれているのをしばらく見つめたあと、蛇が茂みの中へ消えるのを見送った。 「すごく大きな口あいて、カエルをたべちゃったねぇ…」 蛇が消えた茂みを見つめたまま、傍の小鬼に話す悟空の耳を鋭い鳥の鳴き声が刺した。 「…ぁ…」 急いで羽ばたく音の方へ向かえば、先程、蛙を食べた蛇が、鳥――猛禽の足に捕まってのたうちまわっていた。 一部始終を見届けた悟空は、何とも言えない表情を浮かべて、小鬼を振り返った。 「帰ろ…」
夕餉の間も湯殿にいる間もそして、眠る時間になっても、どこか悟空に元気がなかった。 ようやく、悟空が口を開いたのは、閨で三蔵の腕の中だった。 「…あのね…」 じっと、三蔵の紫暗を見つめる金瞳が揺れている。 「…そうだな…生きるためだ」 頷けば、悟空は嬉しそうな笑顔を浮かべた。 その寝顔を見ながら、先程の返事の続きを呟いた。 「今はまだ…な…」 いつまで続くのかわからないが、悟空が独り立ちするまではそうあって欲しいと、願う三蔵だった。
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烏 蛇(からすへび):シマヘビが黒化したもの。 |