二十六夜俟
風花が舞っていた。 蔀を開け放した廂(ひさし)に一人座って三蔵――金蝉童子は丙子の酒を傾けていた。 その部屋の奥の閨(ねや)では子供が温かな袿に包まれて眠っている。 この子供は、長い間一人で暮らしていた神域で拾った。 「…らしく、ないが…」 思ってもこの稚い笑顔を離したくないと思ったのだ。
わからないことだらけだった。 今もそうだ。 それでも子供は素直に、健やかに育ってくれている。 だから――― 少しでも長く一緒にいられるように。 晴れて微かに雪の舞う空に昇った月に。
やがてこの雪は本降りに変わるだろう。
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二十六夜俟(にじゅうろくやまつ):陰暦正月と七月の二十六日の夜半に月の出を待って拝むこと。 |