しずかに眠る夜の街
ひっそりと息を潜めるように街は眠りについていた。 「静かだね」 吐息のような囁きを交わしながら街の時計塔の屋根の上に立ち、二人は眼下の街を見つめていた。 「な、街を見下ろした感じはどう?」 ふわりと目深に被っていたフードを脱いだ影が傍らの影へ問うた。 「いつもと変わらんな」 頷く影のフードが少しずれて金色が月光に光る。 「でもさ、ほら…光の届かない所では奴等が元気に蠢いている」 くすくすと笑って悟空が指差す方へ傍らの影が視線を投げた気配がした。 「視えねえよ」 嫌そうな囁きがこぼれた。 「視えるようにしてあげようか?」 間髪入れずに拒絶が返って、悟空の瞳は笑み崩れた。 「そ?」 確認するようにもう一度問えば、 「しつこい」 煩そうな返事と一緒にぱんっと、頭を叩かれた。 「三蔵!危ないって」 掴んだ拍子にフードがずれ落ち、夜目にも鮮やかな金糸がこぼれて月光を弾いた。 「うるせぇ」 三蔵は自分の腰を抱き留める悟空の腕を離そうと身を捩るが、悟空の腕はびくともしない。 「もう、落ちたら死んじまうんだぞ?」 睨み据える悟空にどうでもいいように答えれば、身体が傾いだ。 「ほらな、予想以上に高いってわかった?」 見開かれた瞳がその高さと暗さに魅せられたようにうっとりと潤む。 「ダメだ。三蔵は俺と生きるんだ」 三蔵の顎を掴んで自分の方を向かせた悟空は、その唇に噛みついた。 「いい加減にしやがれ」 言えば、怒りに染まった金瞳が三蔵を見返した。 「勝手に命を粗末にしたら許さねえ…」 ぎゅっと、三蔵の身体に廻した腕に力を込めて抱きしめ、悟空は三蔵の耳にねじ込むように囁いた。
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