月のひかりと水銀灯
月の光の満ちた夜。 「いつまでこうしている気だ?」 気怠げに缶ビールを飲む手を振って、焔が悟空に問うた。 「そうだな…三蔵が起きるまで」 そう言って、焔の膝を枕にベンチに横たわる青年の顔を覗き込んだ。 「…そうか」 ふわりと笑い、悟空は三蔵の唇を掠めた。 「──で、何でこいつはあんなに荒れた飲み方したんだ?」 缶ビールをまた啜って問えば、 「知らない」 と、そっけない返事が返った。 「珍しい…」 こぼれ落ちた言葉に、拗ねた返事が返った。 「喧嘩したのか?」 問えば、悟空の顔が一瞬、泣きそうに歪んだ。 「う…ん……ま、少し…」 歪んだ表情を隠すように、困った風に苦く笑う姿に、焔はバカらしいと言わんばかりのため息を吐いた。 しかし──と思う。 二人の仲が上手くいかないのであれば、三蔵を焔が「糧」にしてもいいのだ。 「お前がもういらないのなら…」 俺にくれるか?という問いかけは、悟空の拒絶に呑み込まれた。 「ダメだ。三蔵はその髪一本、血の一滴まで俺のだ」 振り返り焔を睨む。 「何だ、つまらないな…いい加減に、素直じゃないこいつに早く飽きろ」 仕様のないヤツと、小さくため息をついて、飲み干した缶を近くのゴミ箱に投げ入れれば、乾いた音が響いた。 「早く俺のものになれ」 言えば、 「いやだよ」 くすくすと笑いながら悟空は焔の顔を覗き込んだ。 「俺は三蔵のモノだよ」 甘く悟空が囁けば、 「知ってるよ」 嫣然と笑って焔は悟空の唇に自分のそれで触れた。 「諦めないんだ」 悟空が笑えば、 「諦めないよ」 唇を触れ合わせたまま笑い合う上で、水銀灯がベンチとそこに眠る三蔵の深い影を道に描いていた。
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