青い花が咲くのはら
明るい陽差しの中、三蔵は悟空たちと泊まっている別荘からさほど遠くない所にある野原に来ていた。
その夜、日没と共に目覚めた三蔵の恋人はテーブルの上に生けられた一本の青い花を見つけた。 「へぇ…珍しいなあ…」 悟空と暮らすようになって、三蔵の生活サイクルは昼型から夜型に変わった。 「三蔵、散歩に行かね?」 リビングのロッキングチェアに座って本を読んでいる三蔵に声を掛けた。 「ああ?」 何だと、顔を上げた三蔵の訝しげな顔に笑いかけ、 「だから、散歩」 促されて、三蔵は面倒臭そうに立ち上がった。
「どこへ行くんだ?」 明るく晴れた夜空に浮かぶ月光の中、三蔵は恋人に手を引かれて歩きながら問いかける。 「いいとこ」 その問いかけに振り返って笑う笑顔に小首を傾げながらも、三蔵はため息を一つこぼして付いて行った。 そんな悟空の想いなど知らず、悟空に連れられて辿り着いた場所を見た瞬間、三蔵は紫暗を見開いた。 「悟空…」 悟空の指差す先、そこは昼間三蔵が一人で訪れた野原だった。 夜明けと共に眠りについた恋人の寝顔を見つめている内に眠気が失せた三蔵は、そのまま朝を迎えた。 安堵したのに…。 青い花と風と太陽の陽差しと明るい世界の営みと音に何故か淋しさを感じた。 けれど今は、青い花が明るい夜空と星、そして淡い月光の中、静かに揺れて、吹きすぎる夜風が柔らかく、静けさが心地よかった。 「悟空」 思わず呼んだ名前に恋人は振り返って小首を傾げて、 「何?三蔵、感動した?」 くすくすと笑う姿に三蔵は繋いだ手を振りほどいて恋人を抱きすくめた。 「三蔵?」 突然の三蔵の行動と、自分を抱きしめる腕の微かな震えに、悟空は三蔵の淋しさと不安に気付いた。 生命の息吹を感じるために。 三蔵は一人ではないのに。 不安になどならないで欲しい。 自由にならない腕を曲げて宥めるように三蔵を叩けば、悟空を抱きしめる力が強くなった。 「大丈夫。俺は傍にいる。三蔵は一人じゃないよ。ないからな」 言えば、益々腕の力が強くなり、悟空を包む甘い三蔵の匂いに悟空は嬉しそうに笑った。
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