おほしさまにおねがいを
夜空の星々を見上げて駆け出す子供達、綺麗に輝く星達を見上げては手をのばしてみたり。
真ん丸お月様に目を輝かせて見とれていたり、闇夜に少しだけ怯えてみたり。
静かに静かにその様子を見守る三蔵と悟空は寄り添うようにして大木の根元に立っていた。
キャッキャッと騒ぐ子供達に苦笑してしまう。
ここまで喜ぶと思わなかった、連れてきて良かったと心底思うほど。
「最近、構ってあげれなかったからね」
「そうだな・・・俺もお前も仕事だったからな」
三蔵の言葉にそうだねと困ったように笑った。
半年経った今でも悟空は仕事をこなしていた、本当は三蔵のところへ転がり込んですぐにヤメようと思ったのだ。
しかし転々と仕事をしながら旅をしていながらもかなり仕事をこなして旅費を稼いでたせいか。
急にヤメられても困ると仕事先の人達に言われたのだ。
せめてあと半年、そう言われて悟空は仕方なく仕事をこなす羽目になったのだ。
三蔵はというとやっぱり“三蔵法師”としての仕事をこなしていて。
先日から急激に忙しくなったせいで、子供達の相手をしてやれなくなったのだ。
子供達だって寂しかっただろうし、甘えたかっただろう、だけど忙しく大変なのは誰よりも分かっているから。
二人で遊んで寄り添って、寂しさを紛らわしていたのだ。
会話も出来ないほどの忙しい仕事に追われている三蔵と悟空を遠くで見ながら。
そんな生活が一週間ぐらい続いたある日。
ついにキレてしまった悟空がヤメたヤメた!!と叫んで仕事を放り出したのだ。
同じく執務室で仕事をしていた三蔵もやってるかと書類を放り出してしまった。
仕事先の人達と寺の僧達は相当焦った、だがそんなの三蔵にも悟空にも関係ない。
子供達とは全然接する事ができないし、自分達だって会話一つロクに出来ないし、くだらない仕事をさせるし。
堪らなかったのだ、そんな日々に。
夕月夜に帰ってきた悟空と三蔵はすぐに子供達のところに向かったのだ。
子供達は驚いた、帰ってくるのが早すぎだと。
そんな子供達を無視して二人は子供達を連れて、今まで寂しい思いをさせた分かまってやろうと外へ出たのだ。
親子水入らずの日々を過ごす為に。
もちろん子供達は戸惑っていたが、だんだんと一緒に居られるという実感が湧いてくるとはしゃぎ始めた。
街に行こうか?と悟空が言うと、子供達は裏山へ行きたいと声をそろえて言った。
四人だけで過ごしたい、そんな子供らしい笑みを浮かべながら。
「ほしがいっぱいね、いくつあるのかな?」
「・・・・100?・・・・1000?・・・・わかんねぇ」
「おとうさん、いくつ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺に聞かれてもな」
「かあさん」
「・・・・・・・そうだねぇ、もう数え切れないほど」
どれくらいだよ〜と空が言うが、それを聞かれても俺も分かんないんだって。
苦笑いして空の頭を撫でる、空は擽ったそうに笑い、とうさんも!!と甘えてきた。
三蔵は仕方ないヤツと苦笑して頭を撫でてやる。
えへへと笑う空は、江流の手を引いてしてもらったら?と言った。
「・・・・・・・・・・・・でも」
恥ずかしそうに三蔵と悟空を見ると、やっぱいいと首を振る。
甘えたいくせにどうしてそんなに遠慮しちゃうかな?と悟空が江流のおでこを小突く。
そして三蔵が苦笑い。
「遠慮はするな、前に言ったな?江流」
「・・・・・・・・・・・・・・うん」
「ったく、そうやってお前は・・・」
遠慮している江流を引き寄せて、頭を優しく撫でてやる。
ちょっと照れくさそうにしている江流に悟空も頭を撫でてやる、変わらないんだよな・・・この遠慮がちの性格は。
甘え方が下手な江流は撫でてもらうと、小さくアリガトウと俯いてしまう。
空がどうしたの?と顔を覗き込む。
何でもないと顔を赤くして、そっぽを向く江流に首を傾げる。
そんな空を悟空が、江流を三蔵が抱き上げてやる。
驚く子供達に二人は久しぶりだからと言って微笑んでやる、子供達は安心したように笑った。
「やっぱりおかあさんに、にてるね?くうは」
「そうだね」
「おれは・・・とうさん?」
「・・・何だ?その遠慮した言い方、嫌なのか?」
江流は首を横に振る、どうやら素直に聞くのが恥ずかしいらしい。
こんなところは全然似てないな、俺の方が可愛くないガキだったような気がする。
「江流、あの星座何だか覚えてる?」
悟空が空を抱えたまま夜空を指差す、江流は夜空を見上げた。
つられるように三蔵と空も夜空を見上げた。
「・・・・はくちょうざ」
「ピンポーン、やっぱり覚えていたんだ」
「何だ?急に」
「うーんとね、昔さ喧嘩した時に輝いていた星座なの」
大喧嘩だったもんな、そう笑う悟空に江流も苦笑い。
三蔵と空はどんな大喧嘩だったんだ?と首傾げた、そんな喧嘩をするように見えないのだが。
あんまり思い出したくないと言う江流に、悟空はそう?と笑う。
「今となっちゃ良い思い出だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・おもわない」
「ねぇねぇ、どうしておおげんかしたの?」
「お前等が喧嘩するなんざ、よっぽどのことだったんだな」
三蔵の言葉に悟空と江流は顔を見合わせた、そして全然たいした事ないと恥ずかしそうに江流が言った。
聞きたいと空が言い、三蔵が悟空を見て聞きたいと目で訴えてきた。
うーんと困ったように唸ると江流を見る、江流は別に言ってもいいと言ったので話し始めた。
「昔な、その・・・夕食でもめてね・・・・おでんか鍋かで・・・」
「ゆ、夕食?おでん?鍋?」
「最初は普通に言い争ってたんだけど・・・だんだん話がずれてきて・・・それで大喧嘩」
「・・・・・・・・・・それだけ?」
「・・・・・・・・・・・たいしたことないっていっただろ?」
今度は三蔵と空が顔を見合わせると、思いっきり笑い始めた。
笑うなよ!!と悟空が叫ぶが二人は笑い止まる気配がない。
三蔵の腕の中にいる江流も笑うなと言うが、止まるどころかさらに笑う二人に悟空と江流が話さなきゃ良かったと後悔した。
「三蔵!!いい加減笑うのヤメてよ!!」
「て、てめぇ等が・・・んなことでな」
「う、うるさいな!!もう!!」
「こうりゅう・・・そんなことで、あははは!!」
「くう、おこるぞ!!」
でもやっぱり喧嘩するんだなと納得した、どんなに仲の良い親子でも喧嘩はつきものだと。
ひとしきり笑った二人は悟空と江流に謝る。
ただ思い出し笑いはまだ止まる気配がないようだが、そんな二人に江流は怒っていた。
「わらいすぎだ、とうさんもくうも」
「悪かった、んなに怒るな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しらねぇ」
「ごめんって、こうりゅう」
フンと拗ねてしまっている江流に悟空は苦笑した、さっきの遠慮はどこいっちゃったのかな?
三蔵は悪かったと頭を撫でてやるがやっぱり拗ねてしまって、空がごめんと言うが江流はムスッとしている。
悟空はホラホラと江流に言うが、やっぱり拗ねていて。
この調子じゃ暫くの間は機嫌が直らないだろうなと悟空は思ったが、江流はふと夜空を見上げて笑った。
「むかついたけど、はくちょうざがみえてるから・・・もういい」
やっと機嫌を直した江流に三蔵が悪かったなと、もう一度撫でてやる。
悟空は空の頭を撫でて、大木の根元に座った。
三蔵も江流を抱えたまま座ると膝に乗せて、四人で夜空の星を眺めた。
「ながれぼしにおねがいするとかなうってほんとかな?」
「ほしってそんなちからがあるのか?」
「そうだね、でも信じてみてもいいんじゃない?ね、三蔵」
「・・・・悪くはねぇな」
輝く星を眺めて、流れ星が流れないか探してみる。
子供達はお互いに手を繋いで、流れないか?と必死で探してみる。
そんなに探して何をお願いしたいのだろうか?悟空が二人に何をお願いしたいの?と聞く。
すると二人は後ろを向いて言った。
「おとうさんとおかあさん、それからこうりゅうとくうが」
「いっしょにいられますようにって」
小さな手を握りしめ合い無邪気に笑う子供達に三蔵と悟空は困ったようにお互いの顔を見合わせた。
そして言うのだ、そんなお願い事しなくても良いと。
二人は何故?と首を傾げる。
「今この瞬間だって一緒に居るじゃねーか」
「だからそんなお願いをしなくてもいいんだよ?」
今、同じ幸せを感じているんだ。
だからそんなお願いしなくたっていいんだと笑う二人に、子供達はそっかと納得する。
そして違うお願いにすると夜空の星を見上げて声を合わせた。
「どうか、おとうさんとおかあさん、それからこうりゅうとくうが」
「いつまでもいっしょにいられますように」
そっと唱える願いには、きっと切実な想いが込められていることを。
三蔵と悟空は感じ取ったがあえて何も言わなかった。
暫くすると、二人ともウトウトと眠りに誘い込まれた。
自分達に寄りかからせて、寝やすい態勢にしてやると二人は本格的に寝てしまった。
スヤスヤと寝てしまった二人を眺めて悟空が三蔵の肩にそっと寄りかかる。
「願うといいね」
「・・・・・・・・そうだな」
「絶対にさ離れないからね?俺、三蔵から」
「当たり前の事を言うな、離れやがったらぶん殴るぞ」
三蔵の言葉にクスッと笑みを浮かべて、暫くこのままでと呟く。
何も言わない代わりに空いている右手で悟空を引き寄せた、それはいいという仕草で。
「同じ幸せ、みんな願ってるんだよね」
「そうだな・・・願ってるな」
三蔵と悟空も静かに目を閉じた。
数え切れない星空の下で、静かに輝く星空の下で。
小さな家族が星達に願ってみた、それは些細な小さな願いで贅沢な願い。
これが願う可能性なんてどこにもないけれど、それでもそっと唱えて願ってみたのだ。
だって、みんな同じ幸せを願っているのだから。
この世界の上に輝くお星様へ。
どうかこの小さな小さな幸せが崩れませんように、小さな小さな願いが崩れませんように。
――――そんな小さなお願い事を小さな家族が星達に願っていた。
end
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