あの瞳が忘れられない

蒼い瞳と金の瞳───自分と同じ…

異端の証



Anxiety
窓から見上げる月は、半分欠けていた。
宿の与えられた部屋のベッドの上に毛布にくるまったまま、悟空はずいぶんと長い間月を見つめていた。
いつも生気に輝く金の瞳が、今夜は不安の色に染められている。
何が不安なのかわからない。
形のない、もやもやしたものが、心の中に翳りの部分を作っていく。







あの瞳が忘れられない

同じ金の瞳───蒼い瞳と金の…

異端の証







背中に人の気配を感じて、悟空は振り返った。

「……さん…ぞ……」

月の光を浴びて金糸が光る。
悟空を見下ろす紫暗の瞳は、深い光を宿して、静かに凪いでいた。

「…何…?」

呟くように三蔵に問いかける。
三蔵は、自分を見つめる悟空に視線を止めたまま、ゆっくりとベットの空いたところに腰掛ける。

「さん…ぞ…?」

悟空も視線をはずせず、二人は正面から向き合う。
自分を見上げる瞳は、月光を反射して柔らかな金の光を放つ。
心の内の不安を色濃く映した金色の瞳。








あいつの勝ち誇ったような笑顔が忘れられない

悟空を見つめるあの瞳が忘れられない

───渡しはしない

身を焼く熱に我を忘れそうになる

───奪われるかもしれない








三蔵は、不安げに見上げる悟空を引き寄せた。

「……さんぞ…」

吐息のような声で、自分の名を呼ぶ。

「…何を不安がってる?」

三蔵の言葉に腕の中の悟空が、身じろぐ。

「わかんない…」

ぎゅっと三蔵の服を握る。









あいつの勝ち誇ったような笑顔が忘れられない

悟空を見つめるあの瞳が忘れられない

───奪われるかもしれない

身を焼く熱に我を忘れそうになる

───渡しはしない








悟空を抱く三蔵の腕に力が入る。

「…さん…ぞ……」

不安に揺れる悟空の声。
すがるように服を掴む腕。

「……大丈夫だ…」







あの瞳が忘れられない

蒼い瞳と金の瞳───自分と同じ異端の証








三蔵の腕の中なのに不安が消えない。
この手に悟空を抱いているのに、もう奪われてしまったような思いが湧き起こる。







あいつの勝ち誇ったような笑顔が忘れられない

悟空を見つめるあの瞳が忘れられない

───渡しはしない




end

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