At Will …

「…やっ…ふぁ…んっ…」

身体をたどる手が熱い。
触れられた場所から疼くような熱が湧き起こる。

「さ…んぞ…あっ…」

切なげに振られる首筋に唇を寄せ、赤い花を咲かせる。
ゆっくりと解きほぐされてゆく身体。

それは神聖な儀式にも似て、震える指先が大切な人を捜す。
差し出された手が握り返されると、閉ざされた金の瞳が開かれた。

「ん…さんぞ…」

名を呼ぶ声に深い紫暗の瞳が返される。

「どうした?」

続く言葉は優しく、腕の中で慣れぬ感覚に怯えを見せる子供の胸に染み渡る。
見返す瞳は濡れて、微かな笑顔を見せる。

「ん?」
「……好き…」

紡がれた言葉に紫がほころび、柔らかな口づけが降り注ぐ。

「ふぁ…」

再び身体をたどり始めた手と唇に点されてゆく熱。

ゆるゆると下肢に溜まってゆく熱に、沸き上がる快感に子供は桜色に染まってゆく。
追い上げる力に抗うこともなく、されるがままに行為を受け入れ、二人は一つになった。

身を裂く痛みと押し寄せる快感の波に子供は高く声を上げ、金の光にすがりつく。
その姿に溺れそうになる己を押さえて、金の光は子供に熱を与え続け、
やがて、子供は頂に達する。

「あっ…やぁ、さんぞ…変に、変にな…るぅ……」

より大きな波に飲み込まれてゆく恐怖に子供は何度も名を呼び続けた。
反り返った華奢な身体を抱き留め、金の光も頂を迎えた。











素肌に触れる絹の感触に子供は、ゆっくりと目を開けた。
目の前には、穏やかな光を点した紫暗の瞳があった。
ぼやけた焦点が結ばれると、子供は跳ね起きた。
途端、身体を何とも言い難い痛みが走り抜ける。

痛みに歪んだ子供の顔を見ていた紫暗の瞳が、ほころぶ。
微かな笑いに気付いた子供が頬を膨らませた。

「…わ、笑わないでよ」

そう言う顔が桜色に染まる。

「笑ってねぇよ」

そう言いながら身体を起こし、子供と向き合う。




あの岩牢から連れ出して五年。
よく今まで我慢したものだと、かつて子供の保護者だった金の光は思う。
養い子に対して抱く己の感情に翻弄され、何度この子供を組み敷いて蹂躙しそうになったことか。
それを思いとどまらせてきたものは、子供が己に向ける純粋な信頼だったのか、曇りのない金の瞳だったのか。
思いを遂げた今では、もうどうでも良いことのように思う。
子供が受け入れてくれた今となっては────




自分を見つめたまま考え込んでしまった金の光に子供は不安を覚えた。

「…さんぞ…」

小さな声で恐る恐る呼ぶ。
自分の考えに沈み込んでいる金の光には小さすぎた子供の声は届かなかった。
じわりと子供の瞳に涙が溜まり出す。

「さん…ぞぉ」

もう一度名を呼ぶ。
答えのないことに子供は不安を募らせてゆく。




子供が自分に抱いていた純粋な思い。
それが愛しい者へ抱く感情だと子供が気付くのを待ちわびた日々。
暴走しそうになる欲望を押さえつけ、限界ぎりぎりまで耐えていたことに、子供のまだ幼さの残る身体を掻き抱いたときに思い知った。



もう、手放せない。
誰にも渡せない。



浅ましい独占欲。

醜い欲望。

出口を見つけてしまった思いはもう誰にも止められない。
行き着くところまで行き着かねばならないだろう。
きっと、この目の前の綺麗な子供を壊してでも───




微かな嗚咽が金の光を己の考えから引き戻した。

「…さんぞ…」

名前を呼びながら子供が泣いていた。

「どうした?」

涙に濡れた頬に手をやると、子供は甘えるようにすり寄ってきた。

「悟空?」
「…さんぞぉ」

涙に濡れた金の瞳が紫暗を捕らえる。

「悟空、何を泣く?」

とまどいを含んだ声音に子供はふわりと抱きついた。
その身体を抱き留めるかいなに子供の震えが伝わる。

「呼んだのに…お、俺、呼んでたのに…」

自分が呼んでも返事をしなかったそのことを子供が責める。
不安だったと抱きつく腕が訴えていた。

「…悪かったな」

柄にもない言葉が口をついた。
すると、子供の震えが止まる。
ゆっくりと身体を起こした子供は、涙に濡れた瞳で不思議そうにとまどう紫を見返した。
そして、

「さんぞ、変…」

そう言って、笑った。
瞬間、目にも留まらぬ早業でハリセンが子供の頭に振り下ろされた。

「っつてぇ…」

頭を押さえて見やれば、自分の大好きな金色の太陽は、これ以上ないほどに赤く染まっていた。

「さんぞ…三蔵ってば」
「何だよ?」

赤い顔を背けながら、それでも聞いてくれるその気持ちに子供は、大輪の笑顔の花を咲かせて、

「大好き」

そう言った。

紡がれた言葉に、金色の太陽が夕焼け色に染まるほどの思いを込めて────




end

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