黄金の檻−前夜 その2− |
本当にいいのかと、何度も確認された。 そのたびに、本気だと、構わないのだと、何度も返事を返した。 この身体一つで、ここが救われるのなら安いものだと思う。 「……悟空…」 泣きそうな表情と声で名前を呼んでくれる人に、悟空と呼ばれた少年は柔らかな笑顔を返した。 「泣かないで…本当に大丈夫だから。俺のことは心配しないで」 悟空の言葉に細い肩を震わせて、この施設の責任者であるシスターは悟空の名を呼び、繊手でまだ幼さの残る頬に触れ、精一杯の力で悟空を抱きしめた。 「…シスター……かあ、さん…」 悟空も自分を息子のように愛し、慈しんでくれた女性(ひと)の一連の騒動の所為ですっかり細くなった背中を抱きしめた。 「じゃあ…行くね」 いつも出かける時に交わした行ってきますの挨拶をいつものように笑顔でシスターと交わして、悟空はその施設を後にした。
少年は孤児だった。 少年の住む施設はお世辞にも裕福とはいえなかった。 けれど、施設が潤ったのはほんの一時で、多額の寄付を受けても施設は困窮していった。 黄金なら何でも買ってくれる。 根も葉もない噂かも知れなかったが、少年はその噂に一縷の望みを掛け、その望みは叶った。 少年は黄金の瞳を持っていた。 少年を見た男はその黄金の瞳に見た瞬間、魅入られたようだった。 そうして、少年はあの施設が抱える借財の金額でその黄金を売り渡した。
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