櫻 ─疑 念─ |
ちりんと、澄んだ音をガラスの鈴が響かせる。 ころころと机の上を転がる鈴を見つめながら三蔵は、昨日のことを思い出していた。
運命なのか、必然なのか、それとも偶然なのか。 そして――― 青葉に変わったあの時の桜の木の下に、三蔵と名乗った悟空の心を縛った青年が佇んでいた。 同じ出逢いを繰り返した再会。 あの時と同じように、どぎまぎとする悟空に三蔵は呆れたように笑った。 「…また、逢えて嬉しい」 と、悟空が言えば、 「そうだな」 と、ぶっきらぼうな返事が三蔵から返った。 「…ねえ、あの時の答え、訊いてもいい?」 三蔵と出逢い、別れたあの日から、片時も心から離れなっかた想いを乗せて問えば、 「…………そうだな……こうしてもう一度お前に逢えたこの気持ちは嘘とは思えねえから…答えは…」 思いも寄らない答えが返ってきた。 「―――っ!」 一方、予想もしなかった悟空の行動に三蔵は抗おうと身をよじったが、抱きしめる悟空の腕の強さが緩むことはなかった。 「嬉しい…嬉しいよ…」 三蔵の首筋に触れる悟空の唇から熱い吐息と喜びに震える声が、三蔵の抗いを止めた。 遠くから園遊会のざわめきが聞こえてくる。 どれほどそうしていたのか、ゆっくりと悟空の腕がとかれ、三蔵と悟空は言葉もなく見つめ合った。 止まった時間。 それが、悟空を呼ぶ声で動き出した。 「行かなきゃ…次こそはゆっくり話がしたよ」 そう言って、もう一度三蔵を抱きしめ、 「これ…次に逢った時に…」 きょとんとする三蔵の手にちりんと鳴る鈴を悟空は握らせた。 「次の約束」 笑って、あの時と同じように三蔵の口唇にふわりと触れて、悟空は呼ばれる声に腕を引かれるようにして去って行った。
―――次に逢う為の約束… 強引だと三蔵は机の上の鈴を見つめながら、強気なくせに三蔵に触れた指先が震えていた悟空の姿を思い出して笑った。 主人の招待客の中の一人だと言うことがわかっただけで、何もわからない。 それを知っての約束なのだろうか。 と、背後から手が伸びて、 「どこがそんなに気に入ったんだ?」 そんな声と共に、ひょいと机の上で転がせていた鈴が取り上げられた。 「……いつ、来た?」 言われて、三蔵の白い頬にさっと朱が走る。 「それはどうした?」 問えば、 「庭で見つけた…」 そんなぶっきらぼうな答えが返ってきた。 「拾った物にしてはずいぶんと大事そうだな」 言えば、 「気に入ったからだが…悪いか?」 まっすぐに主人を見返して問い返してきた。 「いいさ、気に入ったのなら、大事にすればいい。それに、珍しいお前の楽しそうな顔を見られたしな」 その言葉に今度は三蔵の瞳が見開かれた。 「今夜は月が綺麗だ。月見酒に付き合え」 そう言って、主人は月が見える濡れ縁へ向かったのだった。
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