窓の外、冬めいた陽ざしの中、彼の人が佇んでいる。 真っ白な僧衣に柔らかな光が揺れている。 佇む足下には柔らかな落ち葉と下草。 いつも不機嫌な表情を浮かべている顔は、いつになく穏やかで。
|
my dearest |
窓辺に頬杖を着いて、悟空は熱心に庭に佇む三蔵を見つめていた。
本来の誕生日は今日、十一月二十九日。 今朝、起きるなり悟空は三蔵に満開の笑顔で、 「さんぞ、誕生日おめでとう」 そう告げた。 「なあ、さんぞ、今日なんかして欲しいこととかねぇ?」 小首を傾げて三蔵を見やる悟空を三蔵は呆れた瞳で見返した。 「いらねぇよ」 いらぬことを教えてくれると、笙玄の柔和な顔を思い出してため息を吐く。 「ない」 全身で何かしたいと訴える悟空のそのまっすぐな瞳に、思いに負ける。 「なら、側に居ろ」 一瞬、三蔵の言葉に悟空は瞳を見開いたが、すぐに輝くような笑顔を見せると、大きく頷いた。
今朝の会話を思い出して、悟空ははんなりとした笑顔を浮かべる。 本当に三蔵はいつ見ても綺麗だと思う。
そう、あの全てを照らす太陽のように。
───神様なんざいねぇんだよ と、言うくせに、三蔵は聖職者で。 ───神は誰も救わない と、切って捨てるくせに、神にすがる人を何気ない一言で無自覚に救う。
とても純粋な人。
あの日、暗い岩牢の前に立った三蔵を見た時、太陽が降りてきたのかと思った。 どれ程の間、あの暗い闇の中にいたのかさえわからない長い時間。 どうしてあそこに自分は入れられなければならなかったのか。 考えても、思い出そうとしても、そこにあるべき記憶は何もなく。 何かとてつもないことをしでかしたのだろうか。 たぐり寄せるべきモノは何もなく、心に浮かぶのは金色の光と白と赤い色だけ。
でも……
そんなジレンマや不安、恐怖を全て受けとめ、包んでくれる。 岩牢の中で恋い焦がれた太陽よりも眩しくて、広い世界をくれた人。 その人のために、側に居るために努力する。
冬の香りを宿した日向に佇む三蔵を見つめる悟空の瞳は、静かな決意を映して黄金色に輝いていた。 秋と冬の狭間の空は、高いが色は少しくすんで、浮かんだ白い雲は、何処か寒々として見えた。 悟空は空から目を離し、また三蔵に視線を戻した。
ただ、そこに。
白く、透明で、暖かく、綺麗な悟空の宝石。
ただ、共に。
悟空は窓枠に足をかけてよじ登ると、三蔵を呼んだ。 自分の方へ駆け寄ってくる悟空の姿に呆れたようなため息を吐き、三蔵は吸っていた煙草を投げ捨てた。 彼の人が決めてくれた生まれた日を、この世に生を受けた事を喜んでくれるあの金色と出会えたことに、感謝を込めて。 悟空の声が、空に響いた。 「三蔵──っ!」
end |
close |