鎖 骨
長い野宿生活の果て、漸く辿り着いた町の宿屋。
三蔵達は着いたその日は、汗を流すことも、食事を摂ることも忘れて、柔らかな寝台で貪るように眠った。

その翌朝、誰よりも早くに目が覚めた悟空は、汗と埃に汚れた身体を洗った。
三蔵は、微かな水の流れる音で泥のような眠りから覚めた。

「…サル?」

気怠い身体を起こして隣の寝台を見れば、そこに悟空の姿は無く、視線を浴室の扉へ移したその時、待っていたかのように扉が開いた。

「あ…三蔵、起きた?」

起きた三蔵に悟空は嬉しそうに笑いかけ、冷蔵庫へ向かう。
その姿を目で追いなが三蔵は、寝台に腰掛けた。
悟空は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、勢いよく喉を鳴らして飲む。

「おい」
「ん…何?」

半分ほど飲んだ所で三蔵を振り返る。
その口元を飲みきれなかった水が伝い、悟空の首筋を伝う。
悟空はそれを気にする風もなく、ぽてぽてと三蔵の傍へ近づいてきた。

「飲む?」

三蔵へボトルを差し出して問えば、その腕ごと引き寄せられた。

「わっ」

驚いて声を上げる悟空の手からボトルを取ると、一気に残りを三蔵は飲み干した。
その様子を悟空は三蔵の腕の中から見上げる。

「美味い?」
「まあな…」

飲み干したボトルをサイドテーブルに置いて、三蔵は自分を見上げてくる悟空を見下ろした。
さっき零れた水が、鎖骨の窪みに水たまりを作っているのが見えた。

「三蔵も風呂入ったら?気持ちよかったぞ」
「そうだな」

まだ濡れた髪からシャンプーの甘い匂いが薫る。
三蔵は悟空が肩にかけたバスタオルをそっと除け、湯上がりに桜色に色付いた悟空の肌に唇を寄せた。

「…さ、さんぞ?」

三蔵の口唇の触れる感触に、悟空が驚いて身を引こうと身体を捩る。
それを押さえ込み、三蔵は悟空の鎖骨に堪った僅かな水を啜った。

「ひゃぅ…!」

妙な声を上げて、悟空の身体が跳ねた。
それに三蔵は口角を僅かにあげると、鎖骨に歯を立てた。

「んっ…」

その痛みに悟空は眉根を寄せ、跳ねた身体が今度は、一瞬、強張る。
三蔵はそのままきつく吸い上げ、紅い華を咲かせて顔を上げた。

「さんぞ…?」

戸惑った声音と自分を見返す微かに潤んだ金瞳が、目の前にあった。
三蔵は鼻先に口付けを落とすと、悟空の身体を離した。

「風呂に入ってくる」

立ち上がる三蔵を何か言いたげな視線が追う。
三蔵は振り返ると、悟空の耳元に口唇を寄せて、囁いた。

「風呂から上がったら、覚悟しておけ」

そろりと、悟空の耳朶を舐めあげ、三蔵は浴室に入って行った。
その後には、首筋まで朱く染めた悟空が立ちつくしていた。

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