くるぶし
くるぶしが擦れて、赤くなって、すりむいてしまった。
靴下をはけって、三蔵は煩いけれど、生まれてこの方、履いたことなんか一回もない。
多分、きっと。
旅に出る前は、靴下を履けなんて、言わなかったくせに、最近は色々煩い。

「…ってぇ」

八戒に貰った消毒薬で消毒していたら三蔵に見つかった。

「何してる?」

切れた煙草を買ってきた三蔵が、俺を見て顔を顰めた。

「え…あ、消毒」
「見りゃわかる」

ため息を吐きながら側に来ると、手に持っていた消毒薬と脱脂綿を取り上げた。
そして、俺の足首を掴むと膝にのせた。

三蔵は自分が怪我をすることには全くと言っていいほど無頓着だ。
俺がどんなに言っても改めることはない。
そのくせ、俺が怪我をすることには酷く神経質になる。
大きな怪我は尚のこと、小さな擦り傷や切り傷にまで煩い。
心配して貰うのは嬉しいし、こそばゆいけど、過保護なのはちょっと困る。
だから、くるぶしをすりむいたこと、内緒にして手当してしまおうと思ったのに、あっさり見つかって。

消毒する三蔵の眉間に皺が寄ってる。
何も言えない俺は、消毒する三蔵の手元を見ていた。

「…だから、靴下を履けと言っただろうが」

呆れた声音で言われて、俺は頷くしかなかった。

「…うん…でも、履いたこと無いじゃん」
「そうか?」
「そうだよ」

俺の顔を見た三蔵の口元が、微かに綻んでいた。
それを見た瞬間、三蔵の気持ちが分かった気がした。
でも、確かめてみたくなって。

「なあ…何で最近、靴下を履けって言うのさ」
「あぁ?」

消毒を終えた三蔵は、俺の足首を膝にのせたまま、いや、さわさわと足首から脹ら脛を撫でていた手を止めた。

「今までそんなこと言わなかったじゃんか」

手が止まったことに小さく息を吐いて、俺は改めて三蔵の顔を見た。

「…そんなこと」

そう言うなり、足首を思いっきり引っ張られ、俺はバランスを崩して寝台に転がった。
その上にすかさず、三蔵が覆い被さってくる。

「決まっているだろう?」

ついっと、唇を撫でられ、俺は顔に血が上るのがわかった。

「…な、に…言って…」

唇を撫でる三蔵の手を掴んで止めれば、何処か面白そうな色を浮かべた紫暗に、困ったような顔の俺が映っている。

「言わせたいんだろう?」
「そ、そんなこと…」
「そう言うことだよ、悟空」

やんわりと手を取られ、しっとりとした三蔵の唇が俺のそれに重ねられた。

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