窓から見えたさくらは、とても綺麗だった。
風に揺れながら、花びらが舞い降りてゆくその様が。
だから、見たいと思った。
三蔵と、二人で。
出逢った奇跡
映月
夜。
夕食を済ませて、寛ぐ三蔵の前に立った。
「…さんぞ」
「…」
眼鏡をかける三蔵はとても綺麗で。
それでも、黙々と読み続ける三蔵の眼鏡に指をかけた。
「…何しやがる」
むっとした顔も好きで。
「…散歩行こう」
「…断る」
「…飯くったらちゃんと運動しなきゃ」
「…間に合ってる」
それは妖怪との?
「…夜、いつもスルだろ?」
「…////」
「…叩くなっ…いてえ」
真っ赤になって叩いていたら、三蔵が指を掴んできて。
「…行くんだろ?」
新聞は机の上にばさりと置かれて。
散歩に行くことになったのだった。
◆◇◆
宿の近くには桜並木があった。
川の土手沿い。
風に揺られて花びらが舞い落ちる。
「…きれい」
三蔵から指を離して、天に手を仰ぐ。
手のひらに零れ落ちる花びらが幻想的で。
「…覚えてる?」
「…何をだ」
煙草を咥えた三蔵に向き直り語り掛ける。
「…さんぞとであった日も、桜を見たよね」
見知らぬ大地に足を踏み下ろし、その大地を踏みしめるように三蔵の後をついて歩いた。
寺院までの道すがら、桜があって。
『このはな、なあに?』
そう問えば、
『桜』
たった一言返ってきた。
無口な三蔵。
でも。
自分の発した言葉に帰ってくる言葉が嬉しかった。
この端は懐かしい気がするけれど、それよりも。
あの日みたいに届かないところにいるのではない。
手を伸ばせば三蔵がいる、それだけで嬉しかった。
「…おい」
「…ふぇ…」
急に感じたぬくもり。
三蔵に抱きしめられていて。
「…今日は何の日だ」
「…たんじょーびだよ」
「…覚えてんのか」
「…当たり前だよ」
忘れるわけがない。
忘れたりしない。
「…さんぞと出会った日だもん」
桜の木の下に座り込んだ三蔵の膝の上に向かい合わせに座らされた。
「…忘れたら、殺す」
ふっと笑った三蔵の煙草の匂いのした吐息を感じて。
「…ついてる」
「…んっ…」
唇についた桜の花びらを舌で絡め取られる。
薄く開いた唇の間からその舌は入り込んできて。
三蔵の躰に腕を巻きつけながら、三蔵とのキスに酔う。
舞い落ちる花びら。
幻想的な雰囲気に、三蔵のキスに酔いしれてゆく。
今日は4/5。
アナタと出会った日。
あなたと出逢えた奇跡。
○おしまい○
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