涼しい風が吹く。
とある別荘にて。
束の間の休息をとる。
rest
ようやく取れた休暇を利用して、三蔵はとある別荘に来ていた。
傍らには騒がしい子猿一匹。
「…ねえねえねえねえっ、さんぞっ」
「…」
これで今日何度目かの大きなため息を一つ吐いた。
ここに辿り付くまでも大概騒々しくはあったが、到着してからの方が更に騒がしい。
なぜ、こんな子猿を連れて来てしまったのか、今更ながら後悔しても遅い。
ハリセンを掴んで、撓るほどに振り下ろせば、クリーンヒットで。
「…ってぇーっ…なんすんだよっ、さんぞーぉっ」
「…やかましわっ」
「…ぶつことねえじゃんよっ」
ぶたせたくしているのはどこのどいつだ、と睨む。
ぶつぶつ文句を言っていた当の子猿はというと。
しばらくは涙目にして、頭を摩っていたが、それからはたと思いついたように、話し出す。
「…ここ、すんげえ広いのなっ」
あそこには、何があって、ここにはこれがあって、と嬉々として話していて。
指を指す方向に視線をやりながら、三蔵はひとつひとつ聴いてやっていた。
普段なら、しないこと。
忙しいだの、何だのと文句をつけて、聞き流すのが常なのだが。
悟空の言うように、この別荘の敷地は広い。
気候は穏やかで、避暑と休暇には最適な場所だ。
この休暇のために、仕事を詰め込んでいたのだから。
◆◇◆
「…さんぞ、こっちこっち」
紫煙を燻らせながら、悟空の探検記を聴いていて。
そのうち悟空の手に引っ張られて、この場所につれてこられた。
ここも、悟空が指差して、いいとこなんだ、と言っていた場所のひとつである。
確かに。
ここは。
大きな木が一つあって、優しい風が吹いていて、悟空が薦めるだけある。
その悟空は、大きな木の根元に座って、こちらに向いてにこっと微笑んできた。
「…さんぞ」
先程の騒々しさは何処かへ消えうせて。
三蔵は言われるままに、悟空の側に座り込んだ。
「…気持ちいいね」
「…そうだな」
騒々しいなら、いつものごとく、置いてくればいいだけだった。
最初はそう思っていたのに。
それでも、普段騒々しい子猿は、時にこんな穏やかな一面も見せて。
…たぶん。
連れて来なければ連れて来なかったで、こんな気持ちにはなれなかったのだろう。
…こんな穏やかな。
いつも騒々しいだけのこの子供は、自分にとってのオアシスなのかもしれない。
安らぎをくれる、そんな。
悟空の手がシャツにかかる。
そのまま引き倒されてしまう。
「…ご…」
「…さんぞ、しいーっ」
「…あ?」
引き倒された場所には、悟空の柔らかな膝があって。
「…おやすみしにきたんでしょ」
柔らかい微笑。
「…すこしはお休みしなきゃ、躰壊しちゃうし。そんなの、オレやだから…」
風に揺れていた髪の毛に、悟空の指が触れてきて。
梳き始めるその感触に、三蔵は瞼を閉じた。
「…さんぞ。…おやすみなさい…」
悟空の甘い声が遠くに聞こえた気がした。
■fin■
2003 summer
暑中見舞い申し上げます。
リンクをしていただいている皆様へのささやかなお礼です。
とはいえ、こんな作品ですいません。
お好きになさってくださって、構いません。
今後ともよろしくお付き合いくださいませ。
☆FROZEN★STAR☆/映月
<映月
様 作>
『悟空聖誕祭企画』参加の映月様のお話です。
お持ち帰りフリーと在りましたので、すかさず頂いてきました。
悟空のお誕生日は、三蔵と出会った日。
それは、その世に二つと無い奇跡。
夜桜の見守る中、二人の心は解け合うのです。
映月さま、素敵なお話をありがとうございました。
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