field of flowers |
朝、目が覚めて最初に探すのは、金色の太陽。 眠い目を擦り擦り、寝台に起き上がる。 「…さん、ぞ」 子供は金色の瞳を瞬かせて、するりと寝台から降りる。 広がる光。 大好きな太陽は、窓辺の長椅子で煙草をくゆらせて新聞を読んでいた。 「さんぞ!」 嬉しげな子供の声に三蔵は、新聞に落としていた視線を上げた。 「さんぞ!」 三蔵が返事をするまでこの子供は、自分の名を呼ぶつもりだろうか。 「さんぞ!」 子供がまた、呼んだ。 「ああ」 途端、子供は三蔵の首に飛びつく。 「さんぞ」 三蔵の首にかじりついた子供は、壊れたレコードのように三蔵の名前を呼ぶ。 「何だ、悟空?」 抱きつく悟空の身体を引きはがし、三蔵はくしゃくしゃになった新聞を傍らに置く。 「今日は仕事ないのか?」 小首を傾げて訊いてくるその幼い仕草に、三蔵はコイツは今、いくつだったかと年齢を考えてしまう。 「さんぞ?」 答えない三蔵の顔を覗き込む。 「あ、ああ、今日はない」 そう聞いた途端、悟空の顔に大輪の笑顔の花が咲いた。 「じゃあ、じゃあ、今日はずっと一緒に居られる?」 三蔵の膝の上で飛び上がる。 一体何が嬉しいというのだろう。 子供の遊び相手などしたことも、する気もない。 何と言うことはない時間。 悟空は時折振り返り、嬉しそうに笑う。 それに答えるでもない自分。 それでも、子供は本当に満ち足りた笑顔の花を咲かせるのだ。
本当に、何処が良いんだか…
朝食の後、悟空が三蔵の手を引いて、裏山に連れ出した。 「悟空…おい?」 木立が切れたその場所で、不意に立ち止まった悟空に訝しげな視線を投げる。 「見て…三蔵の花畑」 悟空が指さす先の光景に、三蔵の言葉はそこで途切れた。 目の前に広がるのは一面の紫。 「ね、三蔵の花畑。きれーでしょ?」 声もなく立ちつくす背後の三蔵を振り返って、悟空が笑った。 風が緩やかに吹いて、小さな花達をそよがせ、三蔵と悟空の髪に触れた。 「一緒に見たかったんだ」 くしゃっと、悟空の柔らかな髪を掻き混ぜて、三蔵は柔らかな笑顔を浮かべた。
次の休み、悟空は三蔵にとある場所へ連れて来られた。
───お前の花畑だ。綺麗だろう?
end |
close |