三蔵の心の中には、誰が棲んでいるの?
treasure
「三蔵様にご結婚の話が来ているのを知っているか?」
「おい、ここは女人禁制だぞ? ましてや三蔵法師としても尊いお方。
それが何故にご結婚などと」
「俺もその話を聞いたぞ。なんでもこの辺り一帯を仕切っている豪族の娘らしい」
「でも三仏神様が御許しになるのか?」
外から部屋に戻る途中、声高に話す僧侶達の会話が聴こえて慌てて近くの柱に身を寄せた。
この2・3日、どこにいても、耳を塞いでも、寺院中がその話題で騒がしい。
――三蔵が結婚するかもしれない――
初めは嘘だと思っていた。
でも最近の三蔵の様子はどこかおかしかった。
だから、本当かもしれないって。
そんな事は考えたこともなくって。
三蔵が誰かのものになっちゃうなんて、想像したこともなかったししたくもない。
ずっとずぅっと、死ぬまで三蔵と一緒なんだって思ってたんだ。
「さんぞう。あの、さ……」
三蔵に、何度か聞いてみようと思ったんだけど。
でもいざ聞こうとすると、なかなか言い出せない。
だって、なんて言えばいいの?
どう聞いたらいいの?
それでもずっと黙っている事が出来なくて、仕事から戻った三蔵に話しかけた。
「何だ。…言いたい事があるならさっさと言え」
こめかみを押さえ、少し苛々してる三蔵。
そんな姿を見たら、これ以上何も訊けなかった。
訊いてしまったら、本当にオレから離れていっちゃうんじゃないかって不安もあった。
いつもみたいにバカ猿、って言うかもしんないけど、でも……。
「用が無いなら寝ろ。もう遅い時間だ」
珍しくお酒を取り出してきて一気に飲み干し、煙草に火を点けて忙しなく吸う。
「さんぞうは? まだ寝ないの?」
「俺はまだやる事がある。お子様は寝ろってんだ」
不機嫌な顔が更に不機嫌になって。
煙草を咥えた端から揉消し、また火を点けるの繰り返し。
傍に居たかったけど、それも許されそうにない。
途方に暮れていると三蔵に睨まれた。
これ以上ここに居ても三蔵の機嫌が悪くなるだけ。
仕方なくベットへと向かい、布団の上で膝を抱え込んだ。
シン…と静まり返った部屋。
外は月明かりさえ朧で暗く、弱々しい光りを投げかける蒼い三日月だけがオレを見ている。
隣の部屋に居る三蔵の微かな気配を感じながら、眠れずにいた。
明るい太陽の下に連れ出してもらってから、オレの心を占めているのは三蔵だけ。
何をするのも、何を見るのも、三蔵がいてくれればそれで良かった。
だけど、三蔵はオレの事どう思ってるの?
煩いだけのガキ?
迷惑なだけのジャマなお荷物?
オレがいたら、好きな人とも一緒になれない?
好きな人?
三蔵はいるのかな、好きな人。
いつかそうゆう人と暮らすのかな……。
もしそんな人がいたら、オレ、嫌だな。
もうここには居られない。
どうしたらいいんだろう。
ねえ三蔵、オレどうしたらいいの?
教えてよ……。
「ったく、バカ猿が」
悟空が何を気にしているのか、そんな事はとっくに気付いていた。
寺の煩い坊主どもが女みてえに姦しく騒ぎ立てやがって。
この2・3日、何かを言いかけては止めるの繰り返しで日毎に憔悴していく。
飯もろくに食わねぇで、っとにどうしようもねえ奴だ。
素直に訊いてくれば教えてやるんだがな。
ま、それも時と場合によるが。
だいたい、坊主が結婚なんぞできる訳もないし、する気もない。
それを強引に押し付けてくる奴の気も知れないが、信じる奴の気も知れない。
さっきから強く頭に響いてた声が弱くなり、途絶えた。
ほんっとにしょうがねぇバカ猿だな。
燃料が切れて意識を失ったか。
そんなになるまで気にする事か?
もっと他にやる事があるだろうが。
寝室に赴き悟空の顔を覗き込めば、頬には一筋の涙。
それをそっと吸い取ってやり、隣に身を沈ませると身体を抱き込んだ。
無意識だろうがしがみついてきた悟空の頭に顎を乗せ、瞳を閉じれば眠りに吸い込まれていった。
その朝は嫌な夢も見なくて、優しい、ふわっとした感じだけが記憶に残っていた。
三蔵はとっくにいなくなっていて、外は太陽の光りできらきらしてる。
開いていた窓から風がそっと頬を撫でていき、
サイドテーブルの上にあった何か白いものがカサリと動いた。
よくみると三蔵からの書置きで。
「えっとぉ、『昼に村まで出てこい』? 何かあんのかな」
キレイな字で一言、それだけが書かれていた。
三蔵がこんな事するなんて、もしかして初めて?
それより今、何時なんだろう。
うわっ、やべぇー。もう10時じゃん。
三蔵って約束の時間に遅れるとすっげえ怒るんだよなあ。
自分が遅れたときは謝んなくて、だからどうした、って感じなのに。
でもなんか嬉しい。
何があるのかわかんないけど、三蔵が誘ってくれたってだけで嬉しい。
そう思ったら急にハラが減ってきた〜。
とにかく早くメシ食って、昼までにはまだ時間があるから村までゆっくり歩いていこう。
村まで来たのはいいんだけどさ、どこで待ってればいいんだ?
三蔵ってキッチリしてるようでどこか抜けてるとこあるからなぁ。
それとも場所くらい分かれ、って事なのかな。
あーもう、考えんのやーめた。
待っていれば、絶対に三蔵は見つけてくれる。
そうと決まれば見物、見物っと。
「悟空? 悟空じゃないですか」
「……あれ、八戒じゃん。悟浄も」
通りをぶらぶらと歩いてたら、向こうから歩いてくる八戒と悟浄に会った。
「一人でどうしたんです。三蔵とはぐれでもしましたか?」
「なーんだ、オマエ迷子になったの」
「違うよ! 迷子になんかなるわけないだろ! 三蔵と待ち合わせしてんの。
八戒と悟浄は? 買い物?」
悟浄の腕の中には持ちきれないほどの紙袋が納まっていた。
んで八戒はといえば、何も持っていない。
肩に白竜がのってるだけ。
「白竜、久し振りだな〜。いい子にしてるか?」
「サルと一緒にすんなっての。なあ、白竜」
「キュ〜」
白竜がいるのに悟浄に荷物を持たせてるってことは、また怒られたんだ。
この二人喧嘩ばっかしてるけど、ホントは仲いいんだよな。
一緒に暮らしてるし。
そっか、一緒に暮らしてるんだっけ。
三蔵とオレみたいに。
じゃあ、この二人もいつかは結婚する?
「おいバカ猿。なーに考え込んでんだ、脳ミソねぇくせによ」
「何か悩み事ですか? 僕でよければ相談に乗りますよ?」
「………」
「まぁ無理に、とは言いませんが」
俺は慌てて首を振ると、思い切って訊くことにした。
「なぁ。二人は結婚したいって思った事ある?」
八戒と悟浄はビックリしてお互いに顔を見合すと、苦笑をもらした。
「ねぇ悟空。それは何か三蔵と関係があるんですか?」
「え、いや…んっと別に。ただちょっとどうなのかなって」
「……三蔵との待ち合わせはどこで何時ですか?」
「えっと昼に村まで来いってだけ」
八戒は少しの間考え込むと、白竜をジープに変身させて運転席に座った。
悟浄もジープに荷物を置いて乗り込む。
帰っちゃうのかと思ってぼーっと見ていたら、八戒に呼ばれた。
「悟空、三蔵との約束の時間まではまだあります。
ここまでまた送りますからウチでお茶、しませんか?」
「うん、いいケド…」
なんだかよくわかんないけどちょっとノドも渇いちゃったし、さっきの答えも聞きたいから
八戒の隣に乗り込んだ。
そのままジープは村の外れまで走って、そして悟浄と八戒の家に着いた。
「先程の話しの続きなんですけどね」
お茶を出してもらって、八戒も悟浄も椅子に座って落ち着くと八戒から話し出した。
「結婚したいかって質問ですけど、僕も悟浄もこの先女性と結婚することはないと思いますよ。
そうですよね、悟浄?」
「そうだな。一人の女に縛られるのもヤだしぃ、何より他の女が悲しむだろ……イテッ、
蹴んなよ八戒!」
悟浄ってば八戒に足を蹴られたらしい。
「なんで結婚しないんだ?」
悟浄が立ち上がり隣の部屋へ消えた。
八戒はそんな悟浄を苦笑で見送ると、オレに向き直った。
「悟空、僕らが何であるのかわかりますよね」
不思議な質問をされた。
何、って ”妖怪”
だって事だろ。悟浄はハーフだけどさ。
黙って頷くと、八戒は寂しそうな笑顔を浮かべた。
「僕の生涯の相手は花喃しかいません。その花喃がいない今、別の女性と結婚する気は
ありませんし、悟浄は禁忌の子、ですからね。聞いた事はありませんがこの部屋を出たところを
みると、恐らくそういった理由で結婚はしないと思いますよ」
「そっか……」
じゃあ八戒と悟浄は、ずっとこのまま二人で一緒に居る事が出来るんだ。
オレはどうなっちゃうんだろう。
やっぱり三蔵、好きな人いるのかな。
その人の方がオレなんかと一緒にいるよりいいのかな。
何も言ってくれないから、わからない。
「…っ悟空、どうしたんです?」
「えっ?」
「これ、使ってください」
渡されたのは八戒のハンカチ。
そのハンカチの上に水がぽたぽたと落っこちて、まあるい染みを作った。
――ナニコレ?
――ナミダ?
――ダレノ?
――オレノ?
「ねぇ悟空。これは僕の推察なんですけど、三蔵に結婚の話しでもあるんですか?」
涙を拭いたハンカチを手の中に握り締めて、八戒の顔を見つめた。
「寺の坊主たちがそう言ってた」
「三蔵にはちゃんと訊いたんですか?」
下を向くと、首を振って唇をかみ締める。
訊きたかったけど、訊くのが恐かった。
もう三蔵と一緒にいられなくなると思うと、言い出せなかったんだ。
そう伝えたら、八戒は大きな溜息を吐いた。
「僕は三蔵が結婚などするとは思えないんですがねえ。第一、お坊さんですよ?」
「でもっ…!」
顔を上げて八戒を睨みつけた。
「でも、三仏神が許したら結婚するかもって!」
「三蔵が言ったのではないんでしょう? なら悟空、三蔵を信じる事はできませんか?」
三蔵を信じる?
何を? 結婚しないってコト?
「どうやって信じればいいの? 三蔵、何も言ってくれないんだよ」
「言葉だけが総てではないんですよ。寧ろ言葉のほうが嘘だったりする事もあるんです。
大事なのは三蔵を思う気持ち、そうでしょう悟空」
八戒の大きな手が、やんわりと頭を撫でてくれる。
そっか、三蔵を思う気持ち。
それなら誰にも、絶対負けない。
うん、そうだよな。
三蔵がどう思ってくれてるかわかんないけど、オレは三蔵が大好き。
「…ありがとな、八戒…」
どういたしまして、と応えた八戒が急に大きな声を上げた。
「大変です、もうお昼になってしまいますよ! 急いでジープに乗ってください悟空。悟浄!」
「オラ急げよ。こっちはもう準備できてるぜ」
悟浄はいつの間にか玄関の扉にもたれていて煙草を吸っていた。
「時間に遅れると恐いぜぇ、三蔵サマは、よ」
オレ達は慌ててジープに飛び乗り、村まで猛スピードで駆け抜けていった。
遅えな。
遅えんだよ。
遅えったら遅えーんだよ、ったくあのバカ猿が。
それともあの書置きを読んでねえのか?
ボケッとしてるからな、その可能性もある訳だ。
チッ、来ねえなら飯抜きにしてやる。
早く来いってんだ。
「…三蔵様、まだお時間はありますわ。そんなに煙草を吸われては身体の毒です」
声を掛けられて、そこに女が居たことを思い出す。
見れば、困惑顔でこっちを見上げている。
「嫌なら離れてろ」
「ですが……」
チッ。
咥えていた煙草を地面に落とし、草履の裏で力任せに揉消した。
「八戒あそこ! あそこに三蔵がいる!」
村の入り口近く、大きな桜の木の下に三蔵はいた。
三蔵って叫ぼうとして、立ち上がった時に見えた三蔵の後ろ。
「ジープを止めて、八戒」
止まるのを待ちきれずに、オレはジープから飛び降りた。
「…悟空!待って下さい、どこに行くんですか!」
「だって……」
泣き顔を見られたくなくて、八戒に背を向ける。
三蔵の後ろにいたのは、女の人。
三蔵を信じる、って思ったのに。
信じてるって思っていたのに。
三蔵と女の人が一緒にオレを待ってるって、どうゆうこと?
あの人が三蔵と結婚するって女性?
その人と結婚するから、オレもういらないってそれ言うために一緒にいるの?
わかんない。
わかんないよ、三蔵。
なんでそんなヒドイこと……。
「これはどういった事なのか、説明してもらえませんか。三蔵」
不意に飛び込んできた八戒の声。
三蔵?
三蔵がそこにいるの?
――――ヤダ!
こっちに来ないで!
「おい待て、こらサル!」
逃げようとしたのに、お節介の悟浄に捕まった。
「放せ! 放してよ、悟浄……」
もがいても叩いても、悟浄の腕が緩むことはなくて。
更にしっかりと抱え込まれた。
「落ち着けよ。三蔵の話しも聴かないで逃げるのか?」
背中に悟浄の温もりと言葉が伝わってきた。
「このまま逃げてたら、本当に結婚しちまうかもしれないぜ。あんの生臭坊主はよ」
そう言って、頭をポンポンと叩かれた。
「悟浄。そろそろ悟空を放さないと、三蔵が物凄い目つきで睨んでますよ?」
慌てて腕を離す悟浄に少しだけ笑った。
そして思い切って三蔵のいる方へ振り返る。
「さんぞー? ここで待ち合わせして、どうするつもりだった?」
「どうもこうもねぇよ。メシ食わしてやろうと思っただけだ」
え、メシ?
そんだけ?
キョトンとしてたら、悟浄の馬鹿笑いが聞えた。
「ホントに? そんだけ、なの? じゃああの女の人は?」
苦虫を噛み潰したような三蔵の顔。
答えないまま煙草を取り出して火を点ける。
「三蔵、ちゃんと答えてあげないと。まだ何か理由があるのでしょう?」
八戒の言葉を無視するように、ひたすら煙草を吸っていた三蔵がふと口を開く。
「さっきから思ってたんだが、なんでオマエ達がここにいる?
呼び出したのはそこのサルだけだと思ったんだがな」
「お邪魔なら帰りますよ。僕としては何故三蔵が結婚する、なあんて話しが出たのか興味は
あるんですけどね。悟空、今度遊びに来たときにでも話しを聞かせてくださいね」
結婚、の言葉に三蔵の視線がきつくなる。
慌てて八戒を引き止めたんだけど、信じてあげてください、ってそれだけ言って
八戒と悟浄はジープに乗り、来た道を戻っていった。
「おい、悟空」
急に呼ばれたからビクッとして、首を竦め上目遣いに三蔵を見た。
三蔵ってば怒ってるよぉ。
眉間にくっきりと皺が2本できてる。
「あいつらに何を話した」
「え、なにも……」
「ならなんで八戒はあんな事を言った?」
「オレなにも言ってないよ! ただ、ちょっと訊いただけ」
「何を訊いた?」
そんな事三蔵に言える訳ないじゃん。
黙っていたら、三蔵の後ろにいた女の人が近寄ってきた。
「悟空さん、ですね? 初めまして、梨華と申します」
梨華さんは俺と三蔵を見ながらクスクスと笑ってる。
何が可笑しいんだろう。
「ごめんなさい、笑ったりして。三蔵様、悟空さんにお話ししても宜しいでしょう?」
お話し? お話しってなに話すつもり?
それもわざわざ三蔵に確認して。
その三蔵はそっぽを向いて、また煙草を吸ってる。
―――逃げ出したい―――
梨華さんが何か言う前に、ここから逃げたかった。
でも、三蔵を信じるって八戒と約束した。
三蔵を好きって気持ちは誰にも負けない。
「そんなに恐い顔をしないで。あなた、本当に三蔵様のことが好きなのね」
オレ、恐い顔なんてしてるの?
恐いって思ってるのはオレなのに。
だけど梨華さん、笑ってるのに哀しそうな瞳をしてる。
「三蔵様は、女性と結婚するつもりはないそうよ。だから安心してね」
……っえ? 結婚しない?
呆然としていたら、梨華さんが説明をしてくれた。
梨華さんの家はこのあたり一帯を治めている長の娘で、結婚の話しが出ていた事。
相手の人が嫌で好きな人がいるって言ったら、誰だって訊かれて憧れだった三蔵の
名前を咄嗟に出した事。
そしたら直ぐに話しが進んで、三蔵にもその話しが伝えられた事。
三蔵が速攻に断った事。
これじゃ悩んでたオレってバカじゃん。
三蔵も三蔵だ、ちゃんと教えてくれればいいのに。
「あなたが羨ましいわ。三蔵様に大切にされていて」
「ぜっんぜん大切になんかされてないよ? バカだのボケだのすぐに言うし
ハリセンで殴られるし。ね、大切にされてないじゃんオレ」
梨華さんは首を振ると、そっと三蔵を見た。
「三蔵様。お話しも済みましたから、帰ります」
「手間を取らせたな」
「いいえ。……ね、悟空さん。もしよかったら今度遊びに来てね。おいしいお菓子を用意するわ」
「マジ? ホントに行っていいの? いくいく!」
「喧しい、バカ猿!」
ってぇ〜。
そんなにオレ騒いでないじゃん。
「ね、梨華さん。さんぞーってばすぐにハリセンで殴るだろ?」
二人で顔を見合わせて、それからおもいっきり笑った。
そして梨華さんはさよならって言って、走って村へと戻っていった。
「なあ、さんぞー。なんで三蔵から話してくれなかったんだ?」
今日も一日が終わろうとしてる。
三蔵はなんで自分から結婚はしない、って言ってくれなかったのか。
昼間はなんだかバタバタして訊きそびれちゃったから。
新聞を読んで寛いでた三蔵は、眼鏡を外すと煙草に火を点けた。
ほんっと煙草をよく吸うよな。
関係ない事まで頭を掠めていく。
それほど答えが返ってくる時間が長かった。
「俺が話したところで、お前信じたか?」
うーん、信じる!って言いたいトコだけど、どうなんだろう。
「昨日までのお前の精神状態なら信じやしないさ。メシは食わねぇ、ロクに話もしねぇ。
俺が話して納得するんならそうしていたさ」
そっか…そこまで考えてくれてたんだ。
やっぱ三蔵って凄いや。
オレ、三蔵のこと信じようとしてなかったんだな。
だから八戒にも言われたんだ、三蔵を信じてって。
「それで。八戒たちに何を訊いた?」
ゲッ、マジで三蔵って凄すぎる。
八戒の事を思い出したらこれだもん。
「えーっとぉ、その……。あ、もうこんな時間じゃん。オレもう寝るね、オヤスミ!」
そそくさとそこから逃げ出そうとしたのに。
あっという間もなく三蔵に捕まった。
「あの、さんぞ? オレ寝る……」
「黙れ」
「――――――!」
三蔵ってさ、良くても悪くても有言実行タイプだよな。
とくにコレは。
「……ん…ぃや……っもはな……て」
「…で、何を訊いた?」
もう、しつこいよ。
なんだってそんなに何を訊いたか気になるの?
「俺には話せない事か? なら別に構わんがな、この後どうなるか」
「…っちょっと、待ってよ……だいたい、三蔵があんなキ、キス…するから、息、切れて…」
「俺だけの責任じゃないだろうが」
そう言って三蔵はオレから離れた。
やっとなんとか息ができるようになって、八戒に訊いた「結婚したいか」って事を三蔵に話した。
話しを聞き終わった三蔵は暫く黙っていた。
漸く口を開いたと思ったら、とんでもない質問だった。
「お前は結婚なんかしたいと思うのか?」
「オ、オレ? そんな事考えたこともないよ!」
「だろうな」
「さんぞうは? 三蔵は結婚したいって思った事、あるの?」
「ある訳ねえだろ」
速攻で返ってきた答え。
それがなんか嬉しかった。
でも、今はそう思っていても、いつか思うときがくるかもしれない。
そんときは、オレどうなってるんだろう。
どうしたらいいんだろう。
―――――大事なのは三蔵を思う気持ち―――――
三蔵を思う気持ち。
オレは絶対に三蔵を嫌いにはならない。
だから、三蔵を信じる、何があっても。
「お前の面倒を見るだけで手一杯なんだよ、俺は。他人なんか知った事じゃねぇ」
ふわりと抱き寄せられて、三蔵の胸の中に顔を埋める。
トク、トク、と規則正しい心臓の音。
「離れろって言ったって、離れねぇんだろ。なら、ずっとそうしろ」
低くて張りのある、オレが一番大好きな三蔵の声。
嗅ぎ慣れた煙草の匂いが染み付いた法衣。
広くてあったかい、三蔵の腕の中。
三蔵を取り巻く、すべてのものがスキ。
そして、三蔵が大スキ。
だから………。
「うん。そうする」
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michiko 様 1039hitリクエスト 三蔵を好きでたまらない悟空
お待たせいたしました。
「三蔵を好きでたまらない」悟空になっていましたでしょうか? 何か悟空一人でぐるぐると思いが駆け巡っているようで。
書いていてとても楽しかったです。(あまり纏っていない文章ですが……大汗)
好きなように書かせてくださった michiko
さんへ感謝を込めてvv
こんなもので宜しければ、お持ち帰りくださいませ。。。
<風 雅様 作>
風雅様のサイト「verschiedenartig」でキリ番1039を踏んだ折りに、書いて頂きました。
「三蔵が好きでで堪らない悟空」というリクエストにこんな素敵なお話で応えて下さいました。
本当に三蔵が大好きで、ずっと三蔵の傍に居たいのに、肝心なことが言えなくて、
聞けない悟空の可愛くてちょっと切ない思いに思わず応援してしまいました。
三蔵は三蔵で言葉足らずで、悟空を不安にさせても、悟空が大事で三蔵なりに大切にして、離したくないと思っていて。
お互いもっと自分の気持ちに素直になれば、悲しい思いもせずに済んだはず。
でも、そういう不器用さがこの二人の魅力の一端だから困ったもんですよね。
風雅様、素敵なお話をありがとうございました。
キリ番踏めて幸せ。
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