空に近いなあと、ここへ来るたびに思う。 悟空は本社ビルの屋上に寝ころんで、秋の日差しをその身体一杯浴びていた。
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さして重要ではないが、出席を義務づけられた経営会議。 監査役。 実質的な経営に参加するのではなく、悟空は会社経営がうまくいっているか、不正はしていないか、そんなことをチェックする立場にいた。 だから半期決算のこの時期、監査役の悟空は経営会議には出席しないといけない。 眠気と戦いながら何とか午前中の会議を乗り越えた悟空は、昼休み、次の会議までの時間をこの屋上で過ごすことにしたのだった。
涼しい風に身を任せていると、不機嫌極まれりと言った風情の三蔵が、屋上の昇降口から姿を見せた。
「お前は、姿が見えないと思うとここに居るんだな」 呆れた顔でよく言われた。 「だって、気持ちいいじゃん。空が近くて、風が吹いてて、お日様は暖かいし」 そう答えると、そうだなって頷くけど、一言多かったりするんだ。 「姿が見えないと、みんなが心配する」 ほらね。 「さんぞは?さんぞは、心配しない?」 そしたら、くしゃって頭撫でて、 「っつたりめーだ、バカ」 って言って、綺麗な微笑みをくれた。
自分を捜す三蔵の姿に、オリジナルが重なって、悟空は胸が痛んだ。
どこにいやがる?
本社ビルの屋上は、その中央にヘリポートを設け、それを囲むように人が登って、楽しめるスペースを設けている。
身体を起こした悟空は、三蔵が自分を見つけた事に気が付いた。
びっくりさせてやる。
ふっと、笑うと三蔵が建物の下に来た頃を見計らって、下を覗き込んだ。 「やっと、見つけたんだ」 遅いと言わんばかりの口調で言えば、見上げる三蔵がむっとするのがわかる。 「なあ、ここから飛んだら鳥みたいに飛べるかな?」 嬉しそうに告げる悟空のとんでもない言葉に、三蔵は瞳を見開いた。
尚も答えを求める悟空を無視して、三蔵は管制室の屋根に登るためのはしごを探した。 「ねえ、三蔵ってばぁ」 くすくすと笑いながら身を乗り出して、訊いてくる悟空に 「てめえ、そこを動くんじゃねえぞ」 と、指さして言い置くと、はしごを登りだした。 はしごを登り切って、屋根に立ち上がった三蔵は、悟空が屋根の端に立っているのを見つけた。 「悟空!」 慌てた三蔵の声に背を向けていた悟空が、ゆっくり振り返る。 「三蔵…」 それはそれは綺麗な笑顔を見せると、まるで羽が舞うように飛んだ。 「悟空!!」 ほんの数メートル。 「…な、にを…」 全身から音を立てて血が引いて行く。
何だというのだ。 何なんだ…。 まるで迎えがそこにでもいるように。 …悟空……。
どれぐらい惚けていただろう。 「三蔵─っ!びっくりしたぁ?」 にこにこと手を振る悟空が、そこにいた。
そこから記憶がなかった。
気が付けば、頬を赤く腫らし、泣きじゃくる悟空が目の前にいた。 「…ご、ごめん…ごめ、ん…ぃっく…」 泣きながら謝る悟空は、泣き腫らした黄金で三蔵を見上げた。
初めて悟空は、激昂した人間と出会った。 秘密のくぼみから見上げた三蔵の顔は、紙のように白かった。 「…三蔵?」 恐る恐る掛けた声に返された無機質な紫暗に、瞬時に心が冷えた。 そう、悟空はやりすぎたのだ。
「ご…めん…」 上がる息もそのままに悟空は、三蔵に謝った。
見上げてくる泣き濡れた黄金を目にして、ようやく三蔵は我に返った。 「三蔵…」 不安に染まった瞳に、濡れた唇に、震える華奢な身体に、三蔵は言い知れぬ安堵と愛しさを覚えた。 「……悟空…」 そのまま顔を上げさせると、そっと口付けを落とした。 「二度と、こんなことするんじゃねえぞ」 頷く悟空にまた口付けを落とし、三蔵は悟空を抱きしめた。 互いのぬくもりが、互いに生きていることを伝え合う。
二人の何かが変わった日。
end |
リクエスト:悟空に振り回される三蔵サマ |
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ありがとうございました。 謹んで、如月たえ様に捧げます。 |
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