wish for you |
「また、届いた…」 段ボール箱を抱えた悟空が頬を膨らませながらリビングに入ってきた。 「何個目だ?」 問えば、 「五箱目」 ドンっと、床に投げ出すように箱を置きながら答えが返る。 「五つ…お前の恋人はモテるねぇ」 焔の言葉に、拳を突き上げんばかりに力説する悟空の頭が殴られた。 「…ってぇ…──三蔵!」 呆れた声までついてきた。 「バカなことじゃねえもん」 振り返った悟空の顔を見た三蔵の顔が本当に呆れたと言っていて。 「察してやれ。悟空はお前がモテるのが気に入らないんだよ」 焔が笑いを堪えて助け船を出しながら、三蔵の足下に置かれた段ボール箱を指さす。 「送ってよこすなと、毎年言ってるのに…」 訳知り顔で言う焔に、三蔵はため息で答える。 そうなのだ。 焔の言うとおり、編集部に送られてくる三蔵宛のバレンタインチョコレートの多さは毎年数え切れない。 「得体の知れない人間の物なんて三蔵は受け取らないのに」 箱を軽く蹴りながら悟空が言えば、 「わかってんならバカなことほざいてないで手伝え、サル」 そう言って、三蔵は踵を返した。 「サルじゃねえって…──手伝うって?」 三蔵の言葉に反論する途中で、はたと三蔵の言葉に気が付いた悟空は、疑問符を頭に浮かべながら三蔵の後を追った。
「信じられねえっ!」 山のように積まれた綺麗にラッピングされたチョコレートの箱を目の前に、悟空は三蔵の行為を見て思わず声を上げた。 「何だ?」 悟空の慌てた様な口ぶりに三蔵は驚いた表情を何故と、不思議そうに変えながらも作業の手は止めない。 「いいじゃねえか。俺がもらった物をどう扱おうが。それにお前も言ってたじゃねえか、俺は得体の知れない人間からの物は受け取らないって」 そう、でもなのだ。 ほんの一瞬、世間に出回った写真や本のインタビュー記事に写った三蔵の姿に恋をした人間達。 でも、なのだ。 三蔵に想いを寄せる人間達の気持ちもわかるのだ。 受け容れられない悲しみがわかるから。 「…三蔵…」 悟空の泣きそうな声に三蔵はその紫暗を一瞬、見開いてすぐ伏せた。 「……俺は…お前で手一杯なんだよ…」 わかれ、サルと、そう言って、悟空に背中を向けた。 「…ぇ?!」 三蔵の言葉を理解できずに悟空は瞳を見開いた。 「三蔵」 名前を呼ぶなり、悟空は三蔵の背中に抱きついた。 「うん、隙間なんて作らせない。もっと、持て余して」 言えば、抱きついた腕を柔らかく叩かれたのだった。 誰にも負けない、誰にも譲らない、この存在かけてと。
end |