カラフルデイズ




呆れ顔の猫の前には酔っ払ったサルが一匹。



『・・・八戒』
「すいません。こんなに呑ませるつもりはなかったんですけれど・・・」

八戒の家へ呼ばれ、夕飯をご馳走になったのはつい一時間ほどの前のこと。
悟空の隣の、困ったように微笑む元凶を横目で睨むと、三蔵ははぁと溜息をついた。
ほんの少し悟空から目を離して、熱い玉露と饅頭を嗜んでいる隙に、どうやらしこたま呑まされたらしい。

『まだ未成年なんだぞ、こいつは』

小さい身でありながら、八戒に食ってかかると、八戒の膝で大人しく撫ぜられていた猫の赤い瞳がキラリと光る。

『おうおう、すっかり保護者になっちゃって・・・大変だねぇ、三蔵さまは』

赤い瞳の猫が、からかうように尻尾を振る。
うるせぇ。というように睨まれても、何のその。
赤い瞳の猫・・・悟浄はそのまま、酔っ払ったまま寝てしまった悟空の傍へ、軽い足音を立てて近づくと。

『おい、サル!起きろ!三蔵さまはご立腹だぞ』

ぺちぺちと、毛に覆われた小さな手で悟空の頬を軽く叩く。



「ん〜、ごじょ・・・」

こしこしと目元を擦ると、床に寝そべっていた悟空は緩慢に起き上がった。
そうして、頬をくすぐる柔らかい生き物を、膝の上へと抱き上げると。

「ごじょ、良い匂いする〜」

ぎゅー、っとふわふわの毛並みに抱きついて、頬ずりを繰り返す。

『当たり前だ、イイ男はシャンプーに拘るんだ!って、おい離せっ、サル!』

隣で、猫とは思えないほど鋭い殺気を放つ三蔵に、悟浄の背中に嫌な汗が伝う。
悟空と暮らし始めて、一年たつか・・・という頃。
すっかり三蔵には、悟空に対する独占欲やら保護欲やらが芽生えてしまっていた。



『退け』

可愛らしい外見とは程遠い、ドスの効いた声で三蔵が言う。

『言われなくても・・・』

退けれるもんなら今すぐ退きたい・・・。
しかし意外とがっちりと抱き締められてしまっているのだ。
正直苦しい。
八戒っ!助けろ!
と苦しい体勢ながら悟浄が飼い主を振り返った。
やれやれと、八戒が腰を上げる。

「ほら、悟空。あっちに布団を用意してますから。きちんと布団で寝ましょうね〜」
「ん〜・・・」

まるで保父のような口ぶりで、取りあえず悟浄を開放してやる。
漸く悟空の締め付けから逃れられた悟浄は、取りあえず三蔵からも悟空からも遠い位置まで逃げた。

『逃げ足だけは速ぇヤツだ』

チッと舌打ち、思い切り悟浄を睨みつけると、三蔵もふらふらと頼りない足取りの悟空の後を追った。




『たく、弱いくせに酒なんざ呑んでんじゃねぇ、ガキが』
「さんぞーだって猫のくせに熱いお茶のんでんじゃんかよ・・・」
『うるせぇ』

いいか、もう二度と・・・と続けようとした声がふと途切れる。
悟空の腕が急にのびてきて、三蔵を懐に抱き締めたから。

「三蔵・・・俺と同じ匂い・・・」
『そりゃそうだろ。お前と同じシャンプー使ってんだから』
「えへへ、同じかぁ・・・」

くふふと屈託無く笑うと。

「何か、家族みてぇ」

そのまま、すぅすぅと寝息を立て始める悟空を、呆れたように眺めたものの。

『家族みたい・・・じゃなくて、家族なんだろ』



…たく。
それでも三蔵を取り巻く空気はどこまでも穏やかで。
三蔵は器用に掛け布団を引き上げてやると、その隣に潜り込んだ。







<春 緋様 作>

春緋様のサイト「Owl Station」でキリ番3939を踏んだ折りに、書いて頂きました猫三蔵と悟空のお話です。
この可愛い人語を話す?猫な三蔵と悟空のまか不思議なお話が凄く気に入りましてリクエストをさせて頂いたら、
こんな可愛いお話が届きました。
猫のくせに俺様で、三蔵な猫三蔵。
そんな猫に戸惑いつつも心引かれる悟空とのちょっと奇妙で不思議なお話です。
今回は酔っぱらい悟空を文句を言いながら介抱?する猫三蔵。
酔っぱらったママ寝てしまいそうになった悟空を起こそうとする猫悟浄を抱きしめて幸せそうに笑う悟空。
何気ないお話なのに、猫な三蔵が三蔵らしくてやっぱりいいんですよね。
心の温まる優しいお話を春緋様、ありがとうございました。
幸せです。

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