Conscious |
荒々しい音を立てて扉が開かれたかと思う間もなく、叩き付けるように扉が閉じられた。 そのあまりな大きな音に、床で絵本を読んでいた悟空が、飛び上がるようにして振り返った。 そこには、珍しく顔を紅潮させ、肩で息をした三蔵が立っていた。 「…さんぞ…?」 どうしたのかと、悟空は恐る恐る問いかける。 「さ…さん…ぞ?」 吐き捨てるように悟空に言いつけると、窓の下の長椅子に荒々しく腰を落とした。 「サル、水!」 怒鳴られて悟空は慌てて水をくみに走った。 「はい、水」 恐る恐る差し出された水を奪うようにとると、一気に飲み干す。 「もう一杯」 ぐいっと差し出されたコップを悟空は受け取ると、また水をくみに走り、大急ぎで戻ってきた。 「…あ、さんぞ…水」 小さな声で三蔵を呼ぶと、億劫そうに目を開け、悟空の差し出した水を受け取った。
三蔵はいつも感情をあまり表に出さない。
一体何があったと言うのだろう。
これほどの怒りを三蔵が覚えるほどの何があったと言うのか。
しばらくはそうしていた悟空ではあったが、やはり三蔵の怒っている理由を知りたい欲求には勝てず、そっと三蔵を刺激しないように声をかけた。 「何かあった?」 間髪入れずにうつむいたまま返される返事に含まれる棘に悟空は、 「で、でも…」 それでも三蔵が気になる悟空は言葉を続ける。 「黙れ、サル」 顔を上げることなく返される言葉に先程のような棘はなく、代わりに痛みを悟空は感じた。 「さんぞ?」 悟空は少し三蔵に近づいて名前を呼ぶ。 「な、何?!」 驚いて身じろぐ悟空を黙らせると、その細い肩先に顔を埋めた。 「三蔵…」 呼んでも答えは返ってこない。
何が稚児だ。 三蔵らしいって何だ? 一体何処を見てそんな馬鹿げた事をぬかしやがる。 あの日、お師匠様より頂いた「三蔵」という称号。
こんな思いをしてまで手にしていたいものでは断じてない。 でも─── お師匠様からあの日奪われた天地開眼経文。
───しかたねえから、連れってやるよ
こんな猿一匹のことでそこまで言うのか、あのカス共は。
───三蔵、大好き
こつは俺の……
悟空を抱きしめる三蔵の力が強くなった。 「…悟空」 三蔵の声がした。 「何?」 そっと答える。 紫暗の瞳に悟空が映っている。 「悟空…」 もう一度、三蔵が名を呼ぶ。 「…さんぞ」 悟空も三蔵の名を呼ぶ。 「…ど…して……」 吐息のような声で悟空が問う。 「悟空──」 名を呼ぶ。 やがて、悟空の顔にゆっくりと花が開くように笑顔が生まれた。 「うん、大好き」
それは心ない言葉から生まれた真実。 誰よりも強く
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