夢で逢えたら




「七福神の乗った宝船の絵を枕の下に敷いて寝ると、いい初夢が見られるそうですよ」
「じゃあさ、三蔵の絵なら、三蔵の夢・・・見れるかな?」

テーブルに肘をつき、可愛い両手に顎をちょこんと乗せ、円らな金瞳を輝かせた悟空。

「う・・・・ど、どうでしょうねぇ・・・」

三蔵が年末年始で忙しく、部屋に戻って来られない為、快宗がしばしば居間へ顔を見せに来てくれている。
その折りに聞いた初夢の話。

去年まではまだ三蔵も、幾らあっても足らない時間の遣り繰りを付けて、この時期も居間へ極力戻ってきていた。
が、今年は例年になく色々行事が重なり、寝食を惜しんでもまだ時間が足りなくて。
それを見かねた快宗が、一人淋しく過ごす悟空の様子を見る旨、三蔵に申し出たのだ。

「逢いたいなぁ・・三蔵」
「悟空・・・」

今月に入ってからは休みもなく、朝から晩まで寺のあちこちで仕事をこなす三蔵。
他の僧侶の代わりは居ても、三蔵の代わりは居ないから、自然仕事の量は膨大になる。
面倒だと言いつつ几帳面な三蔵のこと、眉間に深く皺を刻みながらも一つ一つ仕事を片付けている筈だ。

寺での三蔵の立場を分かっているだけに、我が儘も言えなくて。
悟空はせめて、夢の中ででもいいから三蔵に逢いたいと思っていたのだ。
そんな時、快宗から聞いた初夢の話は、とても魅力的だった。

快宗の曖昧な返事にも、悟空の意識は、見ることが叶うかどうかも不確かな初夢へと飛んでいる。

「悟空、今度は夕餉の頃に伺いますね」
「うん、ありがとうな!快宗」
「それでは・・・」

ぱたん・・と扉が閉まり、居間には悟空がポツンと一人。
外へ遊びに出てもいいが、今夜の初夢のためには準備が必要で。

「お絵描きセットは・・っと」

初夢で三蔵に逢う気満々の悟空はぴょんと椅子から降りると、以前買って貰った画用紙とクレヨンを用意して。
早速、恋しい自分の太陽を描き始めた。





「よし!完璧・・・でも無いかな?三蔵はもっと綺麗だもんな」

眩い金糸のつもりの黄色い頭に、やけにタレ気味の紫色の瞳。
似ていると言えば、額の紅い印位だろうか・・・描き手に三蔵だと言われなければ判別しがたい代物だが、それでも悟空は大満足。
三蔵に一歩近づいた、そんな気持ちで小さな胸は少し温かくなれる。

「で、忘れちゃダメだかんな」

枕の下に敷き忘れては元も子も無い。
寝室に入り、自分の枕の下へ今描いたばかりの絵を、 「三蔵に逢えますように」 と願いを込めて。そっと忍ばせ、そのままぱふんと枕に顔を押し付けるようにベッドへ寝ころんだ。

三蔵と夢で逢えたら・・・
ここニ、三日言えてない 「スキ」 も言いたい。
温かい腕でギュッてして貰って、耳に届く規則正しい心音を聞いて。
そしてキ・・・キスも・・・って俺って超ヤラシイ!うわぁ・・・・・

恥ずかしさに顔に朱を走らせ、足をバタバタさせた。

「ベッドの上で暴れんな、バカザルが!」

スパーーーン!

血が上った頭でも理解できる、馴染み有るこの衝撃波は、三蔵から繰り出されたハリセンに間違いない。

「へ!?・・・さんぞ?」

クルッと振り向けば、夢でもいいから逢いたくて逢いたくて仕方なかった存在(さんぞう)。
花綻ぶような笑みを浮かべ、ベッド際に立っている紫暗の元へ膝立ちになって近づいて。

「ボケたか悟空。・・・で、何してんだ、お前・・は・・」
「うわぁ・・三蔵だぁ・・・」

二発目のハリセンを繰り出すために、腕を振り上げたままの三蔵の胸へ飛び込んだ。

「さんぞ・・淋しかった」
「だからって、昼間っからここで何してた?一人でナニしてたワケでもねぇんだろ?」
「バ・・・バカ言うな!エロ坊主」

頬を紅潮させ、桜唇を尖らせる様が可愛くて。
ついつい揶揄するような言葉が零れてしまう。

「で、本当に何してたんだ、お前は」
「今晩見る初夢の準備」
「初夢の準備だ!?なんだ、それは」
「快宗に教えて貰ったんだ。いい初夢を見る方法」

にっこり笑う悟空に、そんな方法が有ったか?と訝る三蔵。

「俺、夢でもいいから三蔵に逢いたかった」

そう言って、抱きついていた腕を放し、忍ばせてあった絵を枕の下から取り出した。

「いい夢って・・・これはまさかとは思うが、俺か」
「うん!似てねぇけど、でも・・それは三蔵の顔!」
「俺の夢見てどうする気なんだ、お前は」

ん?と顔を覗き込まれ、悟空は首筋まで紅く染まり、目元も微かに艶を帯び始める。

「それは・・・いっぱいスキって言って、ギュッてして貰って・・・」
「で?その次は何だ」

恥ずかしさに俯けば、スッと伸ばされてきた長い指。
その長い指を顎に掛けられ上向かされれば、口角を微かに上げた愉しげな紫暗と目が合って。

「うぅぅ・・・い、言えねぇ。ってか、もういいだろ!?」

自分の想像した事を三蔵本人に告げるなんて、顔から火が噴き出しそうで。
布団の中に潜り込もうとしたら、あっという間に両腕を掴まれ、体をベッドに縫いつけられた。

「夢なんざ不確かなもンに縋るより、俺なら正夢見せてやる」
「・・・正夢って何?それに、三蔵仕事だろ?」
「ジジイの都合で明日の昼迄体が空いた」
「じゃあ、それまで一緒に居られる?」
「ああ・・・もう黙れ、悟空」

起きてるうちにヤルんだから、夢とは言わんがな・・・

まだ何か喋りたそうな桜唇を自分の唇で塞ぎ、久し振りに触れる柔らかい髪やきめ細かい肌に指を滑らせていく。
数日ぶりの愛撫に、悟空の意識は少しずつ快楽の波に飲み込まれていった。















結局、夕餉もすっ飛ばした二人が、気怠く目覚めたのは明けて三日の朝のこと。

「初夢見損ねたー!!」
「耳元で大声出すんじゃねぇ!いい夢見れただろうが、バカザルが!!」
「三蔵のエロバカ坊主!」

スパパパパン!

甘い時を共にしたとは思えないような、色気のない目覚めに。
今年も何かと手を焼かされそうだと、大地色の髪を優しく梳く紫暗の持ち主は小さく溜息を。
桜唇を尖らせ拗ねモード突入の、可愛い恋人には届かぬように・・・




end




拙い話ではございますが、お年始代わりに・・・なりませんでしょうか?
至らないままの私ですが、本年も宜しくお願いいたします。 <(_ _)>
04/01/02
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<kiyora 様 作>

kiyora様から、新年のご挨拶に小説を頂きました。
嬉しく甘いお話に楽しく、新年から幸せに浸らせて頂きました。
悟空がいつにも増して可愛く、悟空にベタ惚れ三蔵も優しくて、新年早々当てられてしまいましたv
今年も愛しい小猿と生臭坊主三蔵は、幸せであるようです。
kiyora様、素敵なお話をありがとうございました。

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