組み手 |
笙玄が力一杯繰り出した棒が、簡単に悟空の如意棒に払われる。 多々良を踏んで笙玄は、踏ん張りきれずに下草の上に転んだ。 「もう、踏み込みが甘いんだって」 悟空が如意棒をくるりと回して、とんと、地面を打つ。 「…わかってはいるんですが、どうにも…」 座り込んだ笙玄の前に悟空も同じように座り込む。
体術が苦手な笙玄のために、ここ何週間か、悟空が練習相手を務めていた。 「適当にこなしておけ」 とは、玄奘三蔵法師様の言だが、笙玄の性格からすれば手を抜くことなど考えもつかず、一人藁を束ねた丸太や棒きれ相手に鍛錬していた。 それを見かねた悟空が三蔵に頼み込んで、笙玄の相手を申し出たのだった。 「笙玄を壊すなよ、サル」 悟空の熱意に負けた三蔵と悟空の会話に、笙玄はうそ寒い感じを受けたのだが、三蔵法師の半ば強制的な申し渡しに逆らえず、今に至るのであった。
「笙玄、もう一回」 にこっと笑って構えた悟空に、笙玄は引きつった顔で頷き立ち上がった。 「笙玄?」 切れ切れな呼吸の合間にそう告げると、大の字に寝ころんだ。 見上げる空には白い雲が切れ切れに浮かんで、気持ちよさそうに風の腕に流されている。 その様子を傍らに座って見ていた悟空は、回廊の柱の影から姿を見せた三蔵に、笑って見せ、唇に人差し指を当てた。
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