この愛しい存在を

この大好きな人を

どうかこの手で守れますように



守ってあげたい
暗い暗い岩牢から連れ出してくれた。

太陽よりも眩しい世界をくれた。



いつも不機嫌で、すぐ怒る。

でも、本当はとっても優しい。



寺院に居る時は、いつもいつも忙しくて、側に居るのに側に居られなくて、寂しかった。

誰よりも大切で、大事な俺の太陽。



旅に出て、八戒や悟浄も居る。

けれど、三蔵が、三蔵の傍に居られることが嬉しい。

悟浄とふざけて怒られても、腹減ったって喚いてハリセンで叩かれても、すぐ側に居て、

すぐ近くで声が聞こえる。

そのことだけで、心が温かくなって、幸せになる。



ほら、綺麗な三蔵の金糸がお日様の陽ざしに煌めいて、眩しい光を放つ。

ほら、深くて澄んだ紫暗の瞳が、俺を見返す。

風に煽られる金糸の隙間から、深紅の星が見える。

三蔵の視線に俺が笑うと、不機嫌な色が消えて柔らかな光が生まれる。




これは俺だけの秘密。




木陰に座って、八戒と悟浄が昼飯作ってる姿を見ながら、三蔵とこうして居る時間が好き。

俺たちの旅は、危険が一杯で三蔵がケガすることが多い。

俺の力なんて微々たるモノだけれど、少しでも三蔵を守れたらと思う。

守ることも守られることも嫌いな三蔵だけど、疲れ切って気を失うように眠る姿を見たり、

酷いケガの痛みに耐えてる姿を見ると、何とかしてあげたいって思う。



思うのは自由。



だから、これは俺の内緒の決心。



三蔵は俺の太陽だから、誰にも奪われたりしないように。

三蔵は誰よりも綺麗な人だから、何ものにも汚されたりしないように。




俺が何も言わずに三蔵の顔を嬉しそうに見てたら、軽く掌で頭を小突かれた。

「何、バカ面してやがんだサル」

ふんと、鼻を鳴らして、煙草に火を付ける。

三蔵の身体にも染みついた嗅ぎ慣れた煙草の匂いが、辺りに漂う。





ほら、その声。





俺の名前を呼んでくれるその声が、好き。

木漏れ日に煌めく金色の髪が、好き。

俺を見つめるその紫暗の瞳が、好き。

時に自分勝手で、時に脆くて、時にどうしようもなく優しい俺の宝物。



「さんぞ…」

小さく呼べば、

「…ああ?」

答えてくれる、この世でただ一つ、俺の守りたい存在。




















ささくれた心を癒してくれた。

愛おしいと言う気持ちをくれた。

閉ざされた世界を開いてくれた。



いつもバカみたに、幸せそうに笑う。

でも、本当は寂しがり屋で、以外に泣き虫だ。



寺院に居る間は、いつも煩くまとわりついて、傍に居たいとだだをこねた。

傍に置いてやりたくても、できないジレンマに寂しい想いをずいぶんさせた。

誰よりも愛しい、大切な俺の太陽。



旅に出て、八戒や悟浄と楽しそうに笑っている姿を見れば、連れてきて良かったと思える。

この明るい笑顔を見るだけで、気持ちが軽く、柔らかくなる。



ああ、澄んだ悟空の金晴眼が、陽ざしに煌めいて、柔らかな光に染まる。



俺を見つめる悟空の視線に気か付いて見返せば、はんなりとした笑顔を浮かべる。

その笑顔に一瞬、見惚れてしまう。




これは俺だけの秘密。




木陰に座って、八戒と悟浄が昼飯の支度をしている姿を視界の端に見ながら、

悟空とこうしている時間はいい。

俺たちの旅は、常に危険と隣り合わせで、悟空がケガをすることも多い。

戦いの中で、偶に俺の不注意で、ケガをさせてしまう。

俺の力など悟空の力に比べれば微々たるモノかも知れないが、

僅かでも悟空がケガをする回数を減らせたらと思う。

守らなくても良いものが欲しかったはずなのに、

いつの間にか何よりも失いたくない存在になった悟空。

この手で守れるものなら、守ってやりたいとさえ思う。



思うのは自由。



だからこれは、俺の決意。



悟空は俺の生きるための理由だから、誰にも渡しはしない。

悟空は誰よりも純粋で綺麗だから、何ものにも汚させはしない。




にこにこと人の顔を見てる悟空に、この想いを知られたような気がして、

俺は悟空の頭を軽く掌で小突いた。

「何、バカ面してやがんだサル」

どことなく照れくさい想いを隠すように鼻を鳴らして、煙草に火を付けた。

悟空の身体に微かに染みついた嗅ぎ慣れた煙草の匂いが、二人を包む。





ああ、その声。





少し舌足らずに俺の名を呼ぶその声が、愛しい。

木漏れ日に煌めく黄金の瞳が、愛しい。

時に子供で、時に妖艶で、時に儚い俺の宝石。



「さんぞ…」

小さく呼ぶ声に、

「…ああ?」

答えてやれば、それは大輪の花を咲かせる、この世でただ一つ、俺の守りたい存在。






この大好きな人を

この愛しい存在を

守り抜けますように。




end

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