――あなたはなにを信じますか?
Believing
「キミ、迷子でしょ?」 疲れ果てて花壇の縁に腰かけていたところ、急に声をかけられた。 「この町には、ね。迷子になって、そのままもう二度と親に会えなくなっちゃった子供の話があるんだよ。知ってる?」 にこにこと人懐っこい笑顔を浮かべながらも発せられたその言葉に、一瞬で、なにもかもが頭から消えた。 「キミもさ、置いていかれたんだ、って思わない?」 唇に浮かんでいる笑みが、微かに歪み、男が重ねて問いかけてくる。 「こんな人込みの中ではぐれて、二度と会えないかもしれない、とか?」 からかっているのだろうか。 男の顔をじっくりと眺める。 どれも違うような気がした。 覗き込む瞳の奥にあるのは――黒い闇。 そんな感じがした。 「きっと来る」 まっすぐに男の顔を見たまま答えた。 どうでも良い暇つぶしになってやる気はなかった。 「信じてるんだ」 男の言葉に、少し考える。 信じてる。 そう考え、そして、クスリと笑う。 「あなたは『信じる』という言葉の意味を本当に知ってるの?」 一瞬、男の目が見開かれた。軽く。 信じる。 それに。 その言葉の意味は――俺にもよくわからない。 「――参ったな。そういう反撃がくるとは思わなかった」 クスリ、と今度は男が嗤う。 「三蔵」 白い法衣が見えた。 「もう見つけちゃったのか。スゴイね。ここで壊してみるのも面白いと思ったんだけど」 男が背後を振り返る。 「もう何年かかけて、その絆をもっと強く育ててもらってからのがいいかも。それにキミもボクも『信じる』っていう言葉の意味をもう少し知ってからの方が面白そうだ」 クスクスと嗤いながら、男はすっと後ろにさがり、人込みのなかに紛れていく。 そして、すぐにその姿は人込みに紛れてわからなくなった。
西への道をジープで疾走していた。 もうどのくらいこうして旅をしてきたのだろう。 そして。
じっと前の席を見つめていたら、横から手が伸びてきて、首に回された。 「いってぇな、バ河童っ」 じたばたと暴れてみるが、油断してたせいでがっちりと抱え込まれて、腕が外せない。 「寂しいんだろ。迷子の子供みたいな顔してたぜ」 うりうりと、頭を小突かれる。 「迷子なんかじゃねぇよ。このまま西への進んでけば、いつか会えるんだから」 ふっと手が緩む。 「信じてるんですね、悟空は三蔵を」 前の席から八戒が穏やかに声をかけてくる。
クスクスと笑い出した俺に、少し焦ったかのように悟浄が声をかけてくる。 「なんでもない」 言いながらも、笑う。 笑う――。
でも。
三蔵の声が。 だから―――――。
そう思った。
end |
<宝厨まりえ様 作> 「水桜月亭」の宝厨まりえ様にクリスマス企画で書いた「Holy Night」を差し上げた(押し付けたですよね)のお礼にと頂きました。 |