おつかれさま
「おつかれさまぁぁ〜!」
声と共にドン!と突進されてそんな事を叫ばれた。
「・・・・・・・・。」
「さんぞ〜?」
「・・・・誰に・・・・・・。」
――入れ知恵された?と、言いかけて、その愚問に気付いた。
赤い触角の持ち主と、緑の眼の青年が笑みを浮かべながら脳裏を通り過ぎる。
・・・ここ数日の疲れがドッと溢れ出た気分になった。
「さんぞーいっつも頑張ってるから、本当はありがとう!の方が良いと思ったんだけどさ、こっちの方がいっぱんてきだって言われてさ。」
「それくらい、漢字を使え!」
「・・・ケチ。」
「てめぇ・・・!」
「そうじゃなくってさ、さんぞー働きすぎ! もう少し構ってもバチはあたんねーのに。」
「・・・当たってたまるか!サル!」
「ほら、名前も呼んでくれないじゃん〜。」
「・・・・・。」
「な? 疲れてんだろ?」
疲れさせてんのはお前だ・・・と言っても良かったが、それを躊躇わせる程、真摯な光が金瞳に浮かんでいる。
「俺、スゲー心配になるからさ――もう、ちょっと早く帰ってきて欲しい。」
「しか――」
「仕方ないって聞きたくない!」
いつもの常套句を口にしようとした所を、先回りされた。
「なぁ、三蔵が頑張ってるのをありがとうvって、言えるくらいにしてくれよ。」
大きな目が、心配なのだと、口にはしない言葉を切々と語りかけてくる。
「そしたら、おつかれさま♪って言って・・・」
「?」
そのまま――クイッと、くたびれて見える法衣の襟元を引っ張られた。
「―――――。」
「・・・・こう、できるから。」
ホンノリと紅い頬をして、うって変わった嬉しげな笑みを浮かる。
イタズラ成功v って風にも見えるんだが、伝わる思いは本気だ。
唇に残った、暖かい温もりが離れて行くのが勿体無くて――思わず引き止めてしまった。
まったく、裏のないような顔をして、何を考えているやら。
「俺が頑張ったご褒美のつもりか?」
「――っ!そんなんじゃない!」
焦ったように返してくるのに、僅かに口角を上げる。
「・・・だったら、頑張って待ってる自分へのご褒美か?」
「!!」
かぁぁぁー――と音がしそうなくらい、それは見事な変化だった。
瞬く間に真っ赤になったサルは、途端に視線をウロウロさせる。
「・・・フン。」
俺を上手く乗せたつもりだろうが、そうはいくか。
(まさか、あいつらと相談したんじゃないだろうな?)
「・・・・ちょとくらい、見逃してくれてもいいのに・・・さ。」
プックリと頬を膨らませて、ケチケチと小さく文句を繰り返す。
「セコイ手を考えるからだ。」
そう云って掴んでいた手を引きこんで、深く抱きしめた。
久しぶりの、感触。
サラサラと、長いこげ茶の髪が背中を滑っていく。
「お疲れさま。」
こんな時間まで、起きて待っていた事も含めて――お疲れさま、だな?
意地悪く呟やかれて、また文句を言おうと身体を捻って見上げてきた所を捕まえた。
「俺にもご褒美、くれるんだろ?」
―――疲れが取れる、甘い存在を。
(おしまいv)
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