真夜中のからさわぎ
〜 ソコニ アイハ アルノカ ?〜




「良かったですねぇ、いい屋敷が見つかって! コレで今日は野宿しないで済みそうですよv」



今にして思えば。

――軽やかに笑う、この八戒のひと言がすべての始まりだったように思う。





         ◆◇




「本当に・・・急に雨に降られた時は、どうしようかと思いましたけど・・・助かりましたねぇ〜、三蔵v」
「まぁ、な」
「――あれ、悟浄、悟空? どうしたんです、顔色が良くないですよ?」
「やけに大人しいじゃねーか?」

暗い屋敷の廊下を、先に歩いていた八戒と三蔵が俺を振り返った。
(正確には、ノロノロと二人の後ろを付いて歩いていた、俺と悟空の二人を・・・だ。)

「いやぁ・・・・・・そのぉ〜、八戒さん?
 実は俺・・・、やっぱり今夜も野宿で構わないかな〜?とか思っててよぉ?」
「――うん! 俺も!俺も! そっちが良いッ!」

信じられない俺達のセリフに驚いた八戒が、思わず足を止めた。

「一体どうしたんです? 珍しいじゃないですか? 二人とも同じ意見なんですか?」
「えっ・・・と、ホラ!! 明日になれば、ちゃんとした飯も出る宿場町に着くんだろ? だったらさぁ、何もこ〜んな得体の知れない屋敷に無断で泊まらなくても良いかな〜って? なぁ、悟空?」
「そうそうそうっ!! それに、黙って人ン家に入るのは良くねーよ、なッ、悟浄?!」
「・・・おぉ、そうだとも! 良くないぞぉ〜、悟空ッ!!」

――うんうんうん。

意見どころか、コクコクと頷き合うタイミングまでがピッタリだった。
お笑いコンビのように息の合った熱弁を披露した俺達を、八戒は奇妙なモノを見る目つきで暫くの間見つめた。

・・・そりゃそうだろう。
いつもなら野宿から開放された事を、誰よりも先に手放しで喜ぶはずの俺達が渋っているのだから。
(悟空に到っては、今だに「腹減ったー!」のひと言も口に出していないのだ。)

借りてきた猫のように大人しい俺達を前に、八戒は少しだけ首を傾げたが――。

「・・・でもねぇ、幾ら寒い時期じゃなくても、こんなに雨も降ってますし。ジープも疲れているみたいですし。
 と〜〜っても貴重な御意見なんですが、変更はなし――です」

にっこりと笑って、冷たく結論を出してしまった。

・・・すると。

ガァァ〜〜ン!!

そんな『効果音』が聞こえそうなくらいの勢いで、悟空の顔から血の気が引いていった。
無意識なのだろうが、右手で俺の上着の背中を強く握り締めたまま放さねぇ・・・。

―― ヤバイ。
コレは“ホンモノ”だ・・・。

俺はすでに湿気てしまって、火もつかないタバコのフィルターを強く、強く、噛み締めた。






        ◆◇




そもそもの切っ掛けは、4日にも渡って続いた野宿だった。
牛魔王からの刺客に追われるまま本街道から外れてしまった俺達は、もうず〜っと野宿を続けていたのである。
今日も朝から襲撃されてひと暴れした後――本道に戻る事も出来ずに、今日も野宿かと皆が諦めていた。
だが――そんな時に、俺達はこの古びた屋敷を見つけたのだ!

喜ばないでどうするよ? ――ってなもんだろう。

打ち廃てられたような屋敷ではあったが、屋根はまだしっかりしているようだし。
急に振り出した雨に困っていた俺たちには、絶好の避難場所だった。

金持ちの家族が昔、避暑に使っていた別荘ではないか?・・・というのが、錆びた鍵を壊して入った八戒の意見である。
確かに無人になってはいたものの――思ったほど荒れた果てておらず、部屋の数も充分にある。
しかも、家具にはきちんと大きなホコリ除けが被さっていて、ベッドも問題なく使えそうだった。
つまり・・・ここを一夜の宿にするのに、な〜んの問題もないはずだった。

が。
――しかし。

悟空が――この万年欠食児童の“ノーミソ胃袋ザル”が――屋敷に入った途端に脅え出したのである。
そりゃもう、面白いくらいに・・・。

いつもだったら、誰よりも先に屋敷に入り込み、「これくらい大きな屋敷だったらさぁ〜、食料庫とかあるんじゃねぇ? 何か食いモン残ってるかもぉ〜〜♪♪」・・・と、煩く騒ぎ出し、三蔵にハリセンを喰らった後――無理やり八戒の手を引いて、保存食探しに走り出しても不思議ではないと云うのに。
(なにしろ、自称保父さんはサルに甘いからな。)

なのに・・・今回は、ソレがないばかりではなく。
このサルが、三蔵に近寄って行こうともしないのだ!(・・・現に、今も俺の上着から手を離さねぇ!)

つまり、そこから導き出される答えとは――?
この屋敷には、サルの野生の勘をフルに活動させるほど“ヤバイもの”が隠れている――って事なのだ!

――自慢じゃねぇが、俺には霊感なんてない。
ないんなら、気にならねぇだろう?・・・って思うか? ・・・思うよな?

しかぁ〜し!

俺は過去に、その良くわからねぇモンに取り憑かれた挙句に、頭痛、悪寒、吐き気に肩こりetc.――ありとあらゆる霊障に襲われて、寝込んだ経験があったのだ!
取り憑かれて、今にも死にそうになっている俺をこの生臭最高僧様は鼻でせせら笑い・・・サルは俺から逃げ回り、八戒は傍観を決め込み・・・(泣)。
最終的に、八戒が持ってきた怪しげなお札によって、やっと助かった経緯があったのだ。
(勿論、後に“肉体労働”という名目で、お札の料金分たっぷりと八戒にご奉仕させられたのだが・・・。) 

その体験で分かったのは、俺が『取り憑かれやすい体質』――だと言う事だけだった・・・。
救いようもねぇーよ・・・俺。(泣)






        ◆◇




(でもまぁ・・・よく助かったよな・・・俺・・・はは・・・は・・・)
――と、己の不遇な過去の余韻に浸っていた、その時。

辿り着いた広い部屋で、ひとりソファーを占領していた三蔵が、ふと、その紫暗の瞳を広間の天井に向けた。(特に目を引く様な装飾もない、ただ屋根が見える窓側の天井だ。)

つい――つられて同じように見上げた俺の後ろから、悟空の引きつった叫びが聞こえた。

「な、な、なにっ、何!? 三蔵ッッ!?」
「――――別に?」
「う、うそだっ!! 嘘だもんね!! 何か居たんだろ?! 絶っ対〜〜っ、何か見えたんだ、今っ!!」
「・・・・・・煩せぇよ、サル。喚くな;」

「い、イヤ、いやだ、嫌だぁぁ〜〜〜! やっぱ、野宿が良いぃ!!」

俺の背中に隠れたまま、半泣きになって叫んでいる悟空を余所に・・・飼い主様は、眉を顰めて煙草の煙を吐きだした。

(――オイオイ、・・・ど、どうしたら・・・?)
焦る俺と、泣きそうになっている悟空を慰めるべく八戒が仲裁に入ってきた。

「まぁまぁ、悟空、落ち着いて下さい。こんな大きなお屋敷ですからね?
 先客の一人や二人ぐらい・・・・・・居憑いていたって仕方ありませんよ? 我慢しましょうv」
「・・・別に、害もねぇーしな?」
「ホ〜ラ♪ 三蔵もこう言ってますし、ね?」 <にっこり♪

「嫌だぁぁぁぁ〜〜〜〜っっ!!!」

悟空の叫びは尤もだ。(俺も泣きてぇ・・・)

しかし、そんな慰めにもならねぇーセリフを、嬉々として言うのは止せ! 八戒!!
生臭坊主もテメーには害はねぇーからって、俺達の訴えを全部退ける気でいやがる!!

(クソッ・・・! 本気でヤバイ予感がっ・・・!)

――この最高僧、絶対なンか楽しんでるぜ? 絶対だ!!

その証拠に悟空を見つめる視線が・・・何というか、脅える小動物を眺めて――ある種の悦びを感じている・・・ようにしか見えねぇ!
可愛いのに、苛めて、泣かせたくて堪まらねぇ〜って、捻じ曲がった心理がチラチラ透けて見えるぜ。

――しかも、何ですかねぇ? 八戒さん。
アナタが、とぉぉ〜っても楽しそうに見えるんですけど、俺の気のせいでしょうか?
まるで、足元に縋り付いて来る男を、ヒールの底で踏みつける快感に目覚めてしまったような――そんな危険なオーラが見えるんですがッ!?
(・・・モノクルが異様にキラッと光って見えるのも、気のせいか?)

あぁ――駄目だ・・。(泣)
こいつら、アテにならねぇ〜ッ!!

俺は絶望した――。
そして、ズリズリと後ろへ逃げようとする悟空に引っぱられる形で、三蔵と八戒から遠ざかって行く。

「わ、悪りぃが、俺たち今日は二人でテキトーに寝るわ! じゃあ!」
「――あ! ダメですよ! そっちへ行っちゃ、悟浄!」

どんどん距離を取っていく俺達を見て、八戒が慌てたように手招きして止める――が。
無視して、俺は悟空の手を取ると後方の通路へ飛び出した。

このままコイツ等に付き合うくらいなら、幽霊や化け物の方がよっぽどマシだっ!
・・・と、そう思ったんだ。

――その時は。







        ◆◇




「あ〜ぁ・・・」

すでに遠くなった足音を聞いて、八戒は深い溜息をこぼした。

「どうします? 三蔵。 二人共“あっち側”に行っちゃいましたよ?」
「そうだな・・・ま、一応『行くな』と止めたからな?・・・後のことは知らん」
「三蔵も、人が悪いですねぇ〜」
「お前程じゃねぇと思うが?」

・・・と、お互いの顔を見て薄く笑った。

「だってねぇ、あんまり可愛く脅えてくれるものですから・・・・・vv つい♪」
「ふん、――あんなデカイ図体して脅えてる男の何処が可愛い?」
「フフフ・・・ソレは秘密です。
でも、悟空は素直に顔に出してくれるから――また、たまらないですよねぇ〜♪」
「・・・・・・まぁな」

薄く笑いながら、ライターを取り出して新しい煙草に火をつける三蔵に――そういえば・・・と、八戒が手を打った。

「――本当に害はないんですか、アレ?」
「あぁ。・・・楽しい“玩具”を見つけたせいで、すこし騒がしくなるかもしれねぇーが・・・。
 特に警戒する事もねぇ」
「――成仏とか、させてあげないんですか?」
「なんで俺が? ・・・アイツ等を相手に、好きなだけ遊んで満足したら勝手に消えるだろうよ」
「そんなモンですかねぇ? う〜ん・・・ちょっと気の毒になってきたかも・・・です、僕;」
「・・・フン。単独行動に出たアッチが悪い」

(そりゃそうなんですがねぇ・・・)

でもまぁ。
何とかなるでしょう・・・。<たぶん。

八戒は僅かに苦笑して、肩に乗っている白竜を撫でた。








            ◆◇




その頃。
逃げたは良いが、俺達はその広い屋敷で迷子になっていた。



「・・・・・こ、ここまで・・・くれば・・・大丈夫か?」
「ってか、ココどこだよ〜!?」

古い洋館らしいホコリ臭い廊下の真ん中で、俺達は途方に暮れて辺りを見渡した。
すると、灯りのない暗い廊下の先に――何かが落ちているのが見えた。

「・・・こんな場所に・・・人形?」
「でもさ・・・なんか足、変じゃねぇ? 一本・・・多い・・・よう・・・な?」

悟空の言葉に、嫌な汗が背中を滴った。
早くも逃げる体勢に入った俺達の前で、転がっていた筈の人形が――キリキリキリ・・・と、奇妙な音をたてて起き上がった!

「げぇぇぇ――ッ!!」
「動くんじゃねぇ〜よぉぉ〜〜〜〜〜!!!!」

――俺達の悲鳴が重なる中、動き始めた人形が甲高い声でしゃべリ始めた。

『ワタシ ○カチャン♪ カワイイ デ ショウ? 』


薄汚れた西洋風のドレスが、なぜかヒラヒラと揺れている。
幼い子供特有の甲高い笑い声が、廊下の両側の壁に反響して不気味さを増す。
ゴクリ・・・と息を飲んだ俺達の前で、その人形は――さらに。

 『・・・デモネ 呪ワレテ イルノ♪」


――と、明るく『呪われている』宣言をしてきたのだ!

(ははぁ〜ん・・・な〜る程? 足が一本多いのは呪いのせいなのか・・・?)

なぁ〜んて、悠長に突っ込み入れてる場合じゃねぇ〜だろぉぉ〜〜が、俺ぇぇッ?!
過去における『人形』の絡んだ事件で、己が被った被害の数々を思い出してパニック状態になった俺の代わりに、悟空が悲鳴をあげながら如意棒を人形に叩きつけていた。

――バキャッ!
鈍い音をたてて、○カちゃん人形が壊れる。

「ひぃぃぃッ!!!こ、こ、こぉ〜〜ンの馬鹿ザル〜〜ッ!! 呪われてるって自己申告している人形相手に、攻撃してどうするんだぁぁ?!」
「じゃあ、どうしろってンだよぉぉ〜〜〜!!
 三蔵なんか、坊主だし、見えるくせして、いっつも助けてくれないんだぜ?」
「そんなテメー等の事情なんか知るか・・・クソぉ! なんでだ! なんで、俺の前に現れる人形には、マトモなヤツがないんだよっ!? ――そっちの方こそ呪いじゃねーのかッ!?」

云いたくもない泣き言を叫んで、とにかくバラバラになった人形から逃げ出すことにしたが――既に遅かったようだ。
数を増やして復活した『○カちゃん人形』が、そこかしこから降ってくる。

「髪伸ばしてんじゃねぇ〜〜〜ッ!!」<号泣!

今度は三本足だけでなく、髪は伸ばすわ、口は裂けてるわ、血みどろだわ・・・で、手に負えない。
それでも片っ端から振りほどき、蹴り倒し、踏み潰して進むのみだ!
激しく追いすがってくる『○カちゃん人形』を、ゼィゼィと息を切らしながらかわし続けていると、前方の壁に何かが見えた。

「あ!あれ! 悟浄! 壁!――壁になんか、書いてある!」
「ナニ――ッ? 壁ぇ?」

――見ると、赤い色で書かれた文字らしいものがあった。
襲いくる人形をブチのめしながら、素早くその文字を読んでみる。

『 この先を 左に 進め 』


・・・怪しい。


誰がどう見たって、アヤシイ。
だが、後方から宙に浮かんだ人形が追跡してくる今、それを深く考えている暇がない。
仕方なく、俺達は互いに頷きあうとその曲がり角を左に曲がった。

その先にも次々文字が現われた。

『 真っ直ぐ行って 』

『 まだだよ 』


子供が赤いクレヨンで書き綴ったような、幼い文字。
しかも、窓からの月明かりを頼りに走っている廊下が、やけに広く長い事に気付いた。
確か、外から屋敷を見た時はココまでデカくは無かったような?――と疑いながらも、正確に判断するだけの余裕も無く、ただ黙々と走り続ける。

 『 あと二つ 角を曲がって 赤い扉 』


「はぁ〜? ・・・ひょっとして、そこに、ボスキャラでも、いるっ、てか!?」
「その方が良い! ブッ倒せば終わりじゃん!? ――って、アレかな!? 赤いの!」

息が上がってきて、限界を感じ始めた時だったせいか。
漸くゴール地点らしき扉を突き当りの廊下に見つけた時――何の根拠もなく『助かった!!』――という気分になっちまうのが、不思議だよなぁ〜?

「って――オイ! まさか素直にあける気じゃないだろうなッ?! 絶対何かあるって――悟空っ!」

止めろぉ〜〜!
――と、俺が叫ぶより早く――ドアに辿り着いていた悟空が、扉のノブに手をかけてしまったのだ!



・・・大きく開かれた扉。
奈落の底の様に、先の見えない暗闇が見える。



そして――次に。

パパパ、パパパパン!!と、何かが破裂する音が連続して聞こえた。
クリスマスとか、誕生日のサプライズパーティとかで使われるような・・・クラッカーの音に似ている。

「うわぁぁぁぁ!!」
「なんだぁぁ、コレぇぇ〜〜〜っ?!」

バラバラバラ・・・――と、頭の上に何かが降り注ぐ。
見れば、色取々の紙ふぶきだ。
そして、扉からの上部から垂れ下がってきた細長い垂れ幕に、大きく書かれていたのは――。

 『 ハ・ズ・レ ♪ 』   の、文字。


・・・遊ばれている。
完全に、遊ばれている。

ショックで沈んだ俺達の耳に、追いついて来た呪われた「○カちゃん人形」の声が響き続けている。
それはもう、心から楽しそうな、笑い声だ。
ガックリと力尽きたように、その場にへたり込み――俯いた俺の目に、ちいさな紙が写った。
――隣で、同じように腰を抜かして呆然としていた悟空も、ソレに気づいたようだ。

そこにも、何か文字が書かれてあった。

『 うしろ を 振り向いたら 駄目だよ? 』


無言で読み終えた・・・、次の瞬間。
・・・もう、分かるよな?

すでにもう――振り返っちゃってたんだよなぁ・・・。ふふふ・・・ふふ・・・。
『駄目』って云われると、余計にシちゃうモンなんだよなぁ〜〜?

あはははははは〜ん?




─― 数瞬後。

真っ暗な廊下に、俺達の悲鳴が轟き渡ったのであった。




・・・遠のく意識の片隅で。

実に楽しそうな子供の笑い声を聞いた気がした。







         ◆◇




「あ、悟浄!気がつきましたか?」
「・・・・・・へ?・・・・あれ・・・?」

軽快に走るジープの振動に、薄っすらと眼が覚めてきた。
ジープの運転席に、八戒の後姿が見える。
ついでに助手席の三蔵と・・・普段と同じポジションにいる俺――と、悟空。
(コイツは俺の腹に頭を乗せて、まだ寝こけていやがった。)

「ビックリしましたよ〜、朝になって起きたら玄関の前で引っくり返っているんですから、二人共!」
「玄関・・・・・・?」
「馬鹿は風邪を引かねぇーから別に構わんが・・・邪魔だろうが」
「・・・テメー、まさか、踏みつけて先に出ようとしたんじゃねぇーだろうな?」
「悪いか――?」
「〜〜〜〜〜〜っ!」<怒。

フツフツと湧き上がる怒りに髪を逆立てながら、俺は最大の疑問をぶつけてみた。

「・・・ってことは、八戒。お前達は――その・・・何にもされなかったのか?」

「・・・・・・・・・」
「―――おかげさまで、・・・特には?」

何だろう?
今・・・妙ぉ〜な間があったよな?

喉まで出掛かった疑惑に首を傾げた。(悟空はまだ腹の上で魘されている。)
――すると、三蔵が珍しく機嫌の良い顔で煙草の煙を吐き出すと口を開いた。

「だが・・・まぁ・・・そうだな――伝言があったぞ?」
「はぁ? 伝言??」

余程間抜けな顔をしたのか、八戒が気の毒そうに俺を見た。
そして、咳払いをしてコトの真相を告白した。

「えっと・・・『本気で驚いてくれて、一生懸命逃げてくれたり、とっても楽しかったです。たくさん、たくさん遊べました――もう、思い残す事はありません』でしたっけ、三蔵?」
「あぁ・・・」
「? 何・・・・ソレ・・・?」

「ほら、昨日、あの屋敷に居た『先客のお嬢さん』・・・らしいですよ。 病気療養にあの別荘で住んでいたらしいんですが、同じ年頃の友達と遊ぶ事も出来ないまま――小さい頃に屋敷で亡くなったらしくて・・・ずっと、寂しい思いをしていたようです」
「・・・亡くなった・・・・? お嬢さん?」
「昨日、会ったんじゃないんですか? 絵本で読んだコトのあるオバケ屋敷の真似をしたら、素直に怯えてくれたんで・・・相当嬉しかったみたいですねぇ・・・――幸せそうに笑っていましたよ?」
「・・・・・・・・・・はぁぁ?」
「ご苦労様でした、二人とも♪」

・・・そういうと、眩しい位の微笑みを向けられた。

「おかげで、僕もジープもぐっすり眠れましたよ♪ 何しろ、今回の野宿は結構キツくて・・・」
「・・・あぁ、河童とサルも、たまには役に立つな?」

普段より肌の色艶がイイ二人の微笑みが、なけなしの根性を叩き折っていく。

(コイツ等、俺達を犠牲にしておいてノンビリ休んでやがったんだな・・・)

ふら・・・と昨夜からの貧血(?)状態がぶり返す。
目の前が暗くなって、フェードアウトしていくのが分かった。

その先で、三蔵と八戒の満面の微笑みを見たような気がしたのは――幻だったと思いたい。



仲間とか、友情とか・・・信頼とか。
“愛”って・・・ヤツは、どの辺りにあるんだろうか?
探しに行ってみてぇ〜なぁ・・・。

ウ〜〜ン、ウ〜〜ンと、まだ魘されている悟空の頭に手をやりつつ。
死んでるヤツより、生きてるヤツの方がよっぽど怖ぇぇ〜んだなぁ?――と、しみじみと悟った。




そして、最後に――。

俺って、なんでコイツ等と組んで旅をしてたんだっけ?・・・と。
根本的な疑問を脳裏に浮かべてしまったのだった











眼を閉じて、再び昏倒した二人を乗せて。

――何事もなかったかのように、今日も旅はつづく。






終劇?




2006年 8月(改稿)

肝試し的な話は、暑い時が一番ですよね?(笑)

★本当にお待たせしました、michikoさん!<土下座。
 殆ど出来ていたというのに、とうとう2年くらいはお待たせしてしまったんじゃないでしょうか?

593番ヒットリク、幽霊屋敷のドタバタものとして、楽しく喜んで貰えるお話を・・・と考えたのに。
こんな半端なコメディになってしまったのが気になって、どうしても自分の中でOKサインを出すことができませんでした;
インパクトが弱すぎて、面白くも何ともないような気がしたんです;
改稿したこの作品も、リクエストに添えているのか甚だ疑問ではありますが、謹んで進呈します。

いつも悟浄を不幸にさせてごめんなさい。
(似合い過ぎる貴方も罪ね?)

ちなみに、寺院時代三蔵の付き合いで、幽霊現象が起こるトコロ(屋敷とか)にも一緒に行っちゃって、
怖い経験を積んでしまったらしい悟空が書けて、すこし楽しかったです。(笑)
おそらく、怯える顔が見たくてワザと連れ回したんじゃないだろうか? この生臭坊主。

それでは、少しでも楽しんで貰えるコトを祈って。<心から。
返品もOKですから、お気軽に!(^^;)




<みつまめ様 作>

みつまめ様のサイト「みつまめBOX」で593のキリ番を踏んだ記念に書いて頂きました。
洋館、幽霊、人形…お約束のアイテムにこうまで怖がる悟浄と悟空の姿に本当に楽しませて頂きました。
八戒のそこはかとなく(いや、絶対に)悟浄が怯える姿を楽しんでる姿や、
泣きそうになってる悟空の可愛さを人の悪い笑みを浮かべながら楽しんでる三蔵の姿を思っては、
二人とも鬼だなあと思いつつ、これが堪らなく可愛く見えてるんだろうなあって頷いてしまいました。
悟浄が幽霊を怖がるようになった理由ってきっと、八戒の怪談話を夏の夜毎に聞かされた所為だと思いました。
でもこれって、八戒の計画通りって気がします。
三蔵もきっと、八戒に入れ知恵されたに決まってると思います。
怖がらせるように画策したに決まってます。
だって、うるうると目を潤ませて三蔵に縋るような視線を向けて、怖くないって意地貼ってる悟空は可愛いじゃないですか〜(笑)
きっと、この後しばらくは悟浄も悟空も八戒や三蔵に懐かないかもですねv
みつまめさん、可哀想だけど可愛く、楽しいお話をありがとうございました。
うふふ…幸せ〜vv

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