The First Noel
――分かれ道。 右に曲がると寺院のある町への道に。 深く被ったコートに、薄く雪を積もらせた三蔵が歩いてくる。 夜道に似合わない、明るく弾む声が響いた。 「お前、こんな所で何してる? 河童の家で待ってたんじゃねーのか?」 鼻の頭を少し紅くしておきながら、得意気に笑う悟空を見て。 「えっと、・・・三蔵!お帰りなさい!! んで、お疲れ様!」 年末に向けてタダでさえ忙しくなる時期に、重なった風邪の流行。 実際、今夜行った出先の屋敷からも、今日中に帰ってこられるのか怪しいくらいで。 三蔵が無理を重ねて帰ってきてくれた事を察して、悟空が恥ずかしそうに云う。 ――約束。 「・・・こんな所に突っ立ってると、そのうち凍えるぞ」 三蔵は、代わりに手を差し出した。 「・・・えへへ。 じゃ・・・早く八戒のトコ行って、暖ったまろうな!」 ギュッと掴んだ手を放されないのが嬉しくて、夜の静けさに励まされるように。 ハッとしたように、悟空が三蔵の腕に伏せていた顔を上げた。 しばらくすると、三蔵の耳にもはっきりと馬のひずめの音が聞こえ始めた。 コートから覗く金糸に確信を滲ませた声が、騎乗の相手から発せられる。 「それなら・・・明日にでも、書簡を届けりゃ済むだろうが?」 不機嫌を露わにした三蔵に、顔色を変えながらも――膝に額が付いてしまいそうなほど深く拝んでくる使者に、自然と足が止まってしまう。 「あのさ、俺・・・もう大丈夫だからさ、三蔵行ってあげてよ?」 澄んだ、綺麗な瞳が静かに三蔵を見上げていた。 悟空は八戒の待っている家に戻ることにした。
◇◇
「三蔵・・・、それで戻って行ってしまったんですか?」 台所でミルクを温めながらソレを聞いた八戒は、僅かに眉を顰めた。 「でも・・・あんなに楽しみに待っていたのに、良かったんですか? 悟空?」 さっきまで。 『クリスマスくらい、好きな相手には我侭を言ったって良いんだぜ〜!』 丸く満ちた月のような瞳が、こんな大人びた表情を見せるようになったのは何時だったか。 だから。 “恋人になって、最初のクリスマス”くらいは。 気づかれないように小さくため息を吐いた八戒は、いたわる様に微笑んで。
◇◇
蒼い宝石のようにキラキラと頭上で瞬く光を、金の瞳が静かに見上げていた。 “寝付けなくて、散歩に抜け出した。” どうしてか、じっと寝床に蹲っている事ができなかったのだ。 ・・・そろそろ役目を終えたサンタも、自分の家に帰った頃だろうか。 降る雪が、未練がましいその声を吸い込んでくれる事を祈りながら。 呟いた。 右に曲がると寺院のある町への道へ。 その丁度真ん中に立って。 驚いたような、怒ったような低い声が頭に落ちてくる。 「さん、ぞぉ・・・・・」 云いながらスルリと馬から下りた三蔵が、手綱を取ったまま悟空に近づくと少し乱暴に冷えた頬を撫でた。 「あ、うん・・・帰った・・・よ?」 だって、ソレは本当に衝動だったのだ。 「・・・さ――三蔵は、どうして?」 今夜は向こうの屋敷で休むものだとばかり思っていた。 「――約束、しただろうが」 大丈夫だよ?と。 ――三蔵は、ますます形の良い眉を顰めた。 本当の事だからと真面目に反省する悟空に、三蔵がイラついたように舌打ちをした。 夜空の星よりも、強い光を放つ紫暗の瞳。 ――そして。 こわばっていた身体から力が抜けていくのを見て、三蔵の瞳がホッと和らいだ。 逸らされる事のない紫暗が、悟空に続きを促した。 「それ、に、・・・これは、・・・俺、だけの・・・っ、我侭だって・・・思うし」 毎年、暮れにかけての三蔵が、どれだけ忙しく疲れているかを知っているから――。 ・・・それでも寂しくて。 だから、あの夜に口にした約束という名の、願い事は。 笑うしかなかった――と。 確かに弱音を吐かれたとしても、どうしようも出来なかっただろう・・・と思う。 だから、どうしても――この“約束”は守らなければと、思ったのだ。 分かれ道の真ん中で、一人で立ち尽くしたままにしておきたくなかった。 ・・・良かった。 ゆっくり、ゆっくり、背中に回される腕を感じて――三蔵は心から安堵した。 声が震えているのは、ここが寒いからだろうか。 三蔵は、できるだけ優しくその名を呼んだ。
◇◇
「さんぞ、あの馬・・・放しちゃって良かったのか?」 離れがたい想いで繋がれた手のひらから、体温を伝えあう。 「あの、あのさ・・・明日、は?」 意地悪な問いに、悟空は顔を真っ赤にしてブンブンと音がしそうなくらい頭を振る。 言葉にできない嬉しさに、胸が一杯になって何もいえなくなった悟空がギュウギュウ抱き付くいてくる。 ・・・と、小さく囁いた。 雪が溶けるような笑顔を浮かべた。
おしまい |
◇あとがき◇
『恋人同士がイチャイチャする日=クリスマス』という、腐女子の基本に立ち帰ってみました。
(ある企画の甘いお話を読んでいたら、こう・・・自分でも甘い二人に浸ってみたくなった・・・とも言う。<照;)
初めて身体の関係が出来た年の、可愛いオネダリ。
三蔵が、三蔵でなければ容易く叶うことかもしれませんが、その辺はねぇ?←オイ。
クリスマスには一緒にいたいなぁ――って、ダメモトで口にした悟空と。
密かに、それ位は叶えてやりたいと思っていた三蔵様。
――に、なるように頑張ってみました。(苦笑)
なんか、何か違うような気もしますが・・・;
そうそう、八戒さんはいなくなっている悟空に驚くと思いますが、戻ってこないあたりからひょっとして・・・?と察してくれると思います。
後で怒られるだろうけど、まぁ大目に見てくれる人です。
無断外泊の悟浄は、2,3日こき使われるでしょう。<彼なりに気を使った結果なんですけどねぇ;
まぁ、大掃除も忙しいし丁度イイかと。
◆賛美歌の題名(?)からタイトルを取りましたが「最初のクリスマス」程度のイメージだと思ってください;
浮かぶ日本語タイトルがすべて恥ずかしかったから、逃げました;
最後に、クリスマス企画のお話を頂いたお礼に、この話はmichikoさんにv
気に入って下さって、ありがとうございました♪
返品もOKですから、お気軽に!(^^;)
<みつまめ様 作>
みつまめ様から差し上げた「Holy
Night」のお礼にと頂きました。
いいのでしょうか?
みつまめ様が描いていらしゃった吸血鬼悟空の絵とその設定「面食いな吸血鬼悟空」に勝手に萌えて、
勝手にノリノリで描いてしまったお話をこれまた、勝手に押し付けたというのに。
こういうのを「エビでタイを釣る」ということなんでしょうね。
でかした、私(←オイ;)
雪の日の夜、仕事に出掛けた三蔵を健気に待つ悟空の愛らしさと、迷惑をかけたくないと我慢する悟空のいじらしさが切なくて。
でも、約束を果たそうと、守ろうと頑張る三蔵も優しくて、寒い雪の夜がほんわりと温かくなりました。
優しくて、静かで、甘くて切ないお話です。
みつまめ様、本当にありがとうございました。
私は、幸せですv