2008年 クリスマス・リレー




(witten by michiko)

更衣室で途方に暮れる子羊一匹。

高額のバイト代に吊られて、友達に拝み倒されて引き受けたけれど…。
聞いてないと、怒っても後の祭りで。

こんな格好でウエイターは無いだろう。
どう見てもウエイトレスじゃないか。

今日はクリスマスイブで、特別な日のサービスとサンタクロースのコスプレでのアルバイトだと聞いたのに。。
いくら恋人達が甘い時間を過ごすカジュアルレストランだからって…。

赤いミニのワンピース。
胸元のファーも白いリボンも可愛らしくて。
自分の彼女が着てたらすごく嬉しいだろう代物。
スカートなんて何段も重なったレースのパニエが付いてるからふわりと人形のスカートみたいに膨れてて。

いくら女の子に間違われる容姿だとしても自分はどこをどうひっくり返しても男なのに。
主張は受け容れてもらえず、女の子に間違われたまま、衣装を手渡された。
サンタの衣装だから…衣装だからって鵜呑みに信じた自分もバカだけど。
鏡に映る自分の姿に、泣きたくなってくる。

でも、引き受けたからには逃げ出すのも嫌で。
だから、途方に暮れてしまう。

大好きなあの人に何かプレゼントがしたいから丁度いいって引き受けたあの時の自分を殴ってやりたい。
それに、ここはあの人が働いている街だから下手したら出逢う確率だって高い。
見つかったら…そう思うだけで動けない。

途方に暮れた子羊が一匹。




意を決して踏み出した先には……。




(written & illusted by みつまめ様)

――これでもか!!
って云う程の客で溢れかえっていた。

最初の戸惑いなんか、気にしている暇もないほど殺気立ったホール内に腰が引ける。
どれだけカジュアルなレストランでも、今日はクリスマスイブ。



……舐めてたぁぁ!!



次々と入ってくる予約の客に、当日の飛び込みのカップル。
幸い、二人だけの世界に入っている客が殆どで、次第にこの恥ずかしい衣装も気にならなくなってきた。

そうだ、コレは戦闘服だと思えば良いんだ!!

なけなしの根性を振り絞って客をさばき続ければ、9時を過ぎた辺りで漸く客足が収まってきた。
まだ満席とはいえ、少し余裕が出てきたのだ。
おかげで、飲まず喰わずで走り回っていた俺も休憩をもらえた。

慣れないヒールのあるブーツのお陰で、足が疲れてパンパンだ。
店の裏口からコッソリと外に出て、薄暗い壁にもたれる。
(スカートが短すぎて、しゃがんだり座って休めないのがキツイ;)
小さく唸りながら脹脛をさすっていると、通路を通っていくイブの夜にあぶれたらしい青年や中年の男の人の視線が、チラチラと突き刺さってきた。



うわぁ…やっぱり男だって分るんだよな?
みっともないよなぁ?



上から下まで妙に纏わりつく視線に、今の姿をまざまざと思い出して顔に火がつく。
差し入れとして貰った缶コーヒーがすっかり冷めて、ちょっとだけ惨めな気持ちになった。
それでも、あの人に――。
三蔵に見つからなかっただけ、良かったと思おう!

後、店が終わるまで約3時間。
12時には終わるから、大丈夫!!うん!
帰りには貰えるバイト代があれば、三蔵へのプレゼントも余裕で買えるしな!!
何時もおごって貰ってばっかりだし、明日くらいは俺が何かご馳走して…今日の約束が駄目になった事も謝れば万事OKかも?

ココ暫く見ていない三蔵の笑顔を思い浮かべて、シャッキリと背を伸ばすと――再び店の扉を開けた。



……すると。



一箇所だけ、やたら人目を集めているカウンター席があった。
テーブル席はそこそこ埋まっている店内の中で、その隅だけが異質なくらいの視線を集めている。
なんかイヤな予感がしたけど、注文を取りに行かない訳にはいかない…。
溜息半分、出来るだけスカートがヒラヒラしないように近づいて覗き込んだ席には、あの人――三蔵が居た。

「!?」
「………!」

お互いが一瞬、息を呑んで固まる。
けど、三蔵が居る事よりも何よりも…気になったモノがあった。

「さ、さんぞ…ど、したの? その…頭、てか…カチューシャ?」
「――トナカイの角だそうだ」

いやあの、ソレはなんとなく分るけどさ!!
内心で突っ込みを入れる。

どおりでお客さんが注目していた訳だよ!!
こんなに見目の良いスーツ姿の男の頭に、トナカイの角だよ?
…有り得ねぇ!!

「八戒が、さっきこの店の前を通りがかった時に、サンタのカッコで働いているお前を見た――と、残業をしていた俺に知らせに来たんだ」
「え…えぇ?! 八戒に見られてたの!?」

三蔵の同僚で、あの真面目そうな人にまで、こんな恥ずかしい姿を〜〜!!

――とはいえ、今は三蔵にもバッチリ見られている訳だけど。

三蔵が付けているトナカイのインパクトの方が大きかったせいで、…恥ずかしい気持ちが相殺されて普通に会話できている。

「それで、確めに店まで来ようとしたら――八戒に被せられた」
「へ? は、八戒の仕業なの?? ソレ?!」
「――俺が好き好んで被るとでも?」
「…………スミマセン」

ある意味、女の人が寄ってこない効果があるから、嬉しい…かも?

そこで、灰皿で煙草を揉み消した三蔵が、溜息をひとつ吐いた。

「どうせ、上手い話に騙されてそんなカッコしてるんだろう?」
「う…っ」

何もかも見透かすような紫暗の瞳に見つめられて、決まり悪くて眼を伏せた。
きっと、バイトの目的の見当もつけられているに違いない。
騙された挙句に、こんな姿…だもんなぁ。

悲しくなって、黙り込んでいると――

「…で、何時で上がりだ?」

思いがけない言葉が掛けられた。

「え? ま…待っててくれる、の?」
「…トナカイの角を付けられてまで、なんで俺がこの店に来たのか――よく考えろ、バカ猿」
「え…え?」

カチューシャを付けられた時点で、腹を立てて帰っていても可笑しくはなかった三蔵がココに居る理由…?
それって――、ひょっとして。
俺が一番嬉しいと思う理由…だろうか?

「“サンタを攫って行っても良いのは、トナカイだけなんですよ”――だと」
「それって、もしかして“トナカイに連れられて大人しく帰りなさい”ってコトかなぁ…?」
「実際、その姿に目をつけたヤローが、店の周りでウロついているぞ?」
「うそだぁ〜!」

男の癖に、気持ち悪いカッコしてるからジロジロ見ているだけだよ〜。
そう云って笑った俺に、眉間にシワを寄せた三蔵が、

「本当に眼が離せねぇな…」

と、小さく呟いて。

「待っててやるから、早く仕事を終わらせて来い」

と、笑ってくれた。

それは、トナカイの角をつけたままでも充分にカッコ良くて。
サンタでなくったって惚れ直すよな、と思った。




そうして、その夜。

途方に暮れていた子羊…もとい。
その店で、一番可愛かったと噂だった“サンタ”を一人、連れて歩くトナカイが見られたという。




end




<みつまめ様&michiko リレー合作>

「みつまめBOX」のみつまめ様の可愛いサンタコスチュームの悟空のイラストに萌えて、
小話を書かせて頂いたら、こんな素敵で可愛い続きを書いて下さいました。
その上、元になった可愛い悟空のイラストまで戴いてしまいました。
そして、クリスマスには、みつまめ様の所で飾って頂いてv
何でも書いてみるもんですね。
幸せな事が待っていますからv

持って帰られた可愛いサンタがどうなったのか、
甘い想像と邪な妄想が脳内で花開いたのは言うまでもありません(笑)

みつまめ様、本当にありがとうございました。

close