猫になった日




下弦の月が細い光で寝室を照らしていた。



――ほの暗い闇の中でさえ、白く浮かびあがる肌。
  奇跡のように美しい、金色の髪。

そして、どんな宝石よりも気高く気品のある――紫暗の瞳。





あぁ、コレが――全部、今日からは俺のものになるんだ!



悟空はうっとりと目を細めて、寝室のベッドの上に静かに横たわる愛しい人を眺めた。
自分を暗い岩牢から救い出してくれた、唯一の太陽。
・・・一番、大切な人。




ずっと、この日が来るのを待っていた・・・。



恐る恐る、夜の静寂を壊さないように近づいていく。
そっと乗り上げた悟空の体の重みが、ベッドをわずかに軋ませた。
白いシーツに波を描くように――重なった手が、強く握られる。

そして、触れてみたくて仕方のなかった、彼の少し厚めの唇に柔らかく触れた――。




途端に。

グルッと、悟空の視界が反転した。






見下ろしていた筈の体が上にあった。
その背後には、いつも目にする寝室の天井。



――あれ?



・・・と、思う意識は、深く重ねられた唇に奪われていく。
最初から深く口腔を探られて、驚いて逃げようとする舌まで絡め捕られた。





「・・・ぅ・・・ん? ・・・・ふぁ・・・・・・・・ん・・・・・ぅう、ん・・・っ!」

突然、何が起きたのか理解できない悟空は、大きく瞳を見開いて・・・彼――三蔵――を見上げた。
恐ろしいほど近くに、三蔵の綺麗な貌があった。

さっきまで見惚れていた紫暗の色は深みを増して、煽情的なまでの艶気が滲んでいる。

「・・・・ふ、はぁ、・・・・ン・・・・ぅん?」
「――馬鹿、鼻で息をしろ」
「んぅ〜〜ぁ・・・、ふぁ、・・・さんっ・・・・・」

背筋をゾクゾクと這い上がるようなナニかに慄いているうちに、角度を変えられて更に深く重ねられる唇。
苦しそうな息を気遣ってか、わずかに息を吸う隙間をあけてくれるが、舌は絡められたままで・・・。
文句を言おうにも、言葉としては役にも立たない甘い声しか出なかった。

とてつもなく長く感じた口付けがようやく終わった頃には――悟空は躯の芯が抜けたような心持ちで、ぼんやりと天井を見上げる事しかできなかった。
痺れるくらい気持ち悦くて・・・・・・でも・・・・・・。




「・・・・・さ・・・さんぞー? なんか・・・なんか・・・変じゃねぇ?」

ハッ、ハッ、と短く息を継ぎながら、悟空がモツレた舌を動かして・・・目の前で勝ち誇ったような表情をしている男を睨んだ。

(すっかり快楽に滲んだ金の瞳で見上げられても、なんら効果はないのだが・・・。)

唾液で紅く濡らされた唇を、無意識に舌で舐めとる仕草にそそられる。



「――どこが?」
「だって、コレじゃ、俺・・・動けない・・・」

それに、三蔵が着ていた夜着は、悟空がこの手で肌蹴た時からなんら変化はないが――。
ちゃんと着ていた筈の悟空のシャツの釦は、何時の間にやら・・・一つ残らず外されていたのだ。

「―――そうか?」
「・・・・っあぁ、ん!」

外気に晒された薄いわき腹を、三蔵の指が辿る。
その刺激に思わず上げてしまった嬌声に、悟空が真っ赤になった。

「・・・だ、だから! これじゃ、まるで俺が下みたいじゃん?!」
「何を言っている? 最初ッから、下だろうが?」

ジタバタと暴れる子猿の手首を掴むと、今更何を・・・と呆れた三蔵が溜息を漏らすと――。
呆然とした顔で固まっていた悟空が、猛然と身体を起こそうと暴れだした。




「―――えぇぇッ?! なにッ? 下? 俺って下なの?・・・嘘だぁ〜あ!」
「・・・何が嘘だ、馬鹿ザル」

「だって、だって! 三蔵、そんなに綺麗なのに!可愛いのに!
 ――上なんて、有り得ねぇッ!! 絶対、俺のが上だって!!」
「〜〜〜〜ッ、テメーの方が有り得ねぇーよっ!」

片手で押さえていた手首を、ギュッと捕むとシーツに押しつけた。
ついでに、太股の上にも体重をかけて、動けないように押さえ込む。

・・・ますます苦しくなる体勢に、上気していた悟空の顔から血の気が引いていった。

「こんなの――違うじゃん! 俺の方が好きなんだから! 惚れてんだからッ! 俺が犯んのが当たり前だろ?!」
「・・・・・・勝手に決めるな」
「絶対、ゼッテェー! 俺に抱かれた方が良かったって思わせるからぁぁ〜ッ!」
「天に召される瞬間がきても、思わねぇーだろうよ?」

悟空の悲壮な訴えを、冷たく却下する。
そして、サイズの大きいパジャマの余ったウエストから手を突っ込んで――下着の上から悟空のソレを握った。

「――ひゃぁあッ! ・・・な、なっ!! 何すンだよぉぉ〜〜〜!?」
「だから、ナニだろうが」
「ち、違うって! 俺がスんのぉ!!」

「・・・それも・・・・・・そうだな・・・。 だが、今じゃなくて、もう少し慣れてからで良いぞ?」
「―――そっちも何か違う〜〜〜っ!!」

殆ど半泣きで、三蔵を責める。
そして必死に逃れようとするが、太股を押さえられている上に、何時の間にか足の間に三蔵の身体があって閉じる事もできない。

「なぁ、三蔵ぉ〜考え直せよぉ〜〜、絶対――“悦い”って喘がせてやるからっ!」
「・・・・・・喘がねぇーよ」<(怒)
「何でだよぉぉ〜〜、こんなに好きなのにぃ!
 ずっと楽しみにしてたのに〜〜ヤラせてくれたって良いじゃんかぁー!!」
「・・・・・・・・・・」

涙を浮かべて顔を左右に振りながら、ダダッ子のように叫ばれて――三蔵の心に僅かに良心の芽が芽生えた。
握っていた急所から、手を離してやる。



――が。



「三蔵、そんな綺麗なのに・・・艶っぽいのに・・・、可笑しいよぉー。
 絶対、下の方が似合ってるのにぃ・・・・。」

・・・グスグスグス。

鼻を鳴らしながら漏らしたその言葉に、三蔵はブッチリとその芽を引き千切って捨てたのだった。






作戦変更。






「―――だが、お前初めてじゃないのか・・・?」
「え・・・・あ、・・・・・・うん・・・。でも! 絶対、満足させるからさ!」
「本当に?」
「うん!」

キラキラッと、光を取り戻す瞳。
興奮しすぎて、目元が仄かに紅くなっている。

ソレを横目に見ながら、三蔵は思わせぶりに深く溜息を吐いた。



「・・・・悪いが、そう簡単に信用できない」
「えぇ〜〜?」
「まずは、自分で身体で覚えろよ。
 ――それで上手くなったと、俺から合格点を貰えたら・・・その時は、心ゆくまでお前の好きにさせてやる」
「・・・・・・ホント・・・?」
「あぁ。 慣れてもいないお前に、酷くされるのはイヤだしな・・・」
「だ、大丈夫! スグに上手くなって、もう、喘ぎまくらせてあげるからな?!」
「・・・・・・・・・・・楽しみ、だな」<(薄笑)
「――おう!」

一生懸命に握りこぶしを作って誓う悟空の、自覚のない甘さに――喉の奥でクスリと笑う。
そして、自ら大きく夜着の前を開いて、悟空の触れたがっていた肌を晒してやった。

常には隠されている白い肌を見て、ほわ・・・っと、嬉しげに金瞳が綻ぶ。



「・・・じゃ、まず手順から覚えていけ」
「あ・・・・う、ん。そ・・・だよな?」
「俺より上手くなって、気持ちヨクさせてくれるんだろう?」
「――うん!」

花の様に笑んだ唇を舌で撫でて、もう一度、甘い口腔を味わった。
それだけで、トロンとした瞳になるようでは、まだまだ俺を喘がすには早いけどな・・・。



・・・ま、じっくり教えていってやるか。



細い首筋に紅い華を散らせながら――三蔵はすでに息を乱しはじめた悟空を、満足そうに見遣った。









その後。

三蔵から合格点を貰える頃には――。







すでに悟空の躯が、三蔵なしでは満足できなくなっていた・・・らしい。







おしまい♪




★悟空だって男の子ですから、まずは――男らしく「上」を目指してもイイと思いませんか?(笑)
 他にも、一度言わせて見たかったセリフが一杯使えて、楽しかったですv

 結局、三蔵の口車に乗せられて、うまく首に鈴を付けられてしまったようですが・・・;
 ――悪い男に惚れたと諦めるしか・・・?
 (その内、騎○位くらいならさせて貰えたかもしれませんし。)

  まぁ・・・幸せそうなので、良いですよね? ね?
  
  ではッ! 
  <逃げろ。
  

                     みつまめより         
                  2005年 6月16日




<みつまめ様 作>

みつまめ様に、可愛いお話を頂いてしまいました。
空三風三空な甘いお話です。
三蔵様、貞操の危機?
と、おもいきゃ、言葉巧みに言いくるめてしまう三蔵。
なんて悪い男。
言いくるめられる悟空も可愛いです。
みつまめ様、甘いお話をありがとうございました。

うふふ…幸せものです。

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