迎えが来るまで |
「ラスト!」 如意棒を振り抜いて悟空は、襲ってきた妖怪の最後の一人を弾き飛ばした。 「うっえぇ…」 ぷるぷると頭を振って顔にかかる雫を振り飛ばし、悟空はすぐ近くにあった枝を大きく張り出した木の下に入った。 「みんなは…?」 木の下に落ち着いて辺りを見渡せば、全員バラバラに離されたのか、倒した妖怪の骸以外、見えるものはない。 「ずいぶん離れたんだ…」 自分の置かれている状況がわかって、悟空はため息をこぼした。 「うっわぁ…置いてかれる?」 考えればそれはごく当たり前のことのように思えて、悟空は青くなった。 「どうしよう…」 唸っても、首を捻っても解決策は浮かんでこない。 「えっ?!」 はっとして、振り返れば、そこにはあのヘイゼルとか言った宣教師の相棒がいた。 「…えっと…」 驚きに金瞳を見開く悟空に、 「こっちに向かっているから動くな」 と、告げる。 「な、にが…?」 問えば、 「ヘイゼル達だ」 と、答えが返った。 「びっくりしたじゃんか。気配もなくていきなり出てきたらさ」 掴まれた腕をさすりながら文句を言えば、 「すまん」 と、謝られた。 「いいよ、もう…で、ヘイゼル達ってことは、三蔵達もこっちに向かってるの?」 いつもなら三蔵の気配は簡単に捕まえられるのに、今は上手くいかないから、確かめるしかない。 「ああ…こっちへ向かってる」 ガトの揺るぎない返事に悟空は嬉しそうに頷いて、礼を言った。 「びっくりしなくてもいいじゃんか」 僅かな表情の変化を見逃さない悟空の観察眼に今度こそガトはその黄色い瞳を見開いた。 「何で?って思ってるだろ?」 ガトの驚いた表情に悟空はくすくすと喉を鳴らして笑うと、種明かしをして見せた。 「だってさ、三蔵も不機嫌な顔付きしててわかりにくいからさ、同じ」 そう言って、笑った。 あの恐ろしく綺麗な三蔵法師は、その容姿などお構いなしにいつも不機嫌な小難しい顔付きをしている。 「わかるのか?」 思わず問いかければ、 「わかるよ?何で?ガトだって三蔵が不機嫌かそうでないかぐらいはわかってるだろ?」 と、言われて頷けば、 「それで十分じゃん。あれで三蔵はわかりやすいからさ」 うんうんと、訳知り顔で頷かれた。 「どこがわかりやすいんだ?」 訊いてしまった。 「ふぇ?あんなに表情豊かなのに、わっかんねえ?」 質問に質問で返されて、ガトは首を傾げるしかない。 「おっかしいなあ…ホント、三蔵ってよく笑うし、怒るし、意外に涙もろくて、照れ屋。んで、すぐ拗ねてんのに」 嬉しそうに、楽しそうに、不思議そうに三蔵の話をする悟空の顔を見つめながら、ガトは悟空にとって三蔵の存在がどれ程大事で、絶対の存在か理解した。 「お前がそう言うのなら、そうなんだろうが、俺にはよくわからん」 正直に言えば、悟空は金瞳を見開いた後、それは誇らしげな笑顔を浮かべた。 「いいよ、わかんなくても。三蔵の良い所は俺が知ってればいいんだもん」 と、胸を張る。 やがて、雲が切れてきたのか、日が差し始める。
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