シャム双生児 (from Gap)
透明な硝子、透明な水。
その中に浮かぶ綺麗な生命。

何も知らず、ただ真っ白な心。

綺麗な、ただ綺麗な子供。

「あなたの兄弟とでも思って下さい。この子はあなたの身体の一部であり、あなたの心を、あなたの記憶を共有するのです」
「共有…?」

見上げてくる瞳は何処までも深く澄んだ紫暗。

「そう、一週間に一度、ここへ来て、この子にあなたの見てきたこと、したこと、感じたことを聴かせてあげて下さい」
「……どうして?」

小首を傾げる仕草に流れるように金糸が子供の白い額に触れる。

「いつかあなたが出逢い、あなたが守る大切な宝のためにです」
「宝…」

頷く瞳にまだ翳りはなく、ただ真っ直ぐに前を見据える。
その視線の先で真っ白な子供が微睡む。

「この子もその宝を守るの?」
「はい。あなたに何かあったら代わりに。あなたの代わりに守るのですよ」
「そっか…」

少し困ったように綺麗な柳眉を寄せて、子供は何かを考えていた。
その様子を見つめる人の眼差しは何処までも優しく、穏やかで。
子供がこの先辿る道を思えば、今の子供はあまりにも綺麗すぎて、耐えられるか心配になる。
だが、子供は大人が考えるよりも強靱でしなやかであった。

「俺が頑張れば、この子はこの中でずっと静かに眠ってるんだ」
「そう言うことになります」
「じゃあ、俺のこと知らなくてもいいと思うけど?」

子供のその言葉に、自分は役目を全うするからこの子供は不必要だという想いを汲み取って、子供と向き合う人は哀しげな笑顔を見せた。

「先生?」

その笑顔に子供は何か、困らせただろうかと、紫暗が翳る。

「それはダメです。人は不意の事故や病気であっけなくなってしまう存在なんです。あなただってこの先、何があるかわかりません。私だってそうです。でも、あなたは普通の人には出来ない仕事にこの先就くのですから、もしもの準備はしておかなければならないのです」
「もしもって?」
「あなたが病気で動けなくなったり、怪我をして仕事が出来なくなった時、守るべき宝は誰が守るのですか?」
「俺が…あ、そうか…」
「気が付きましたか?」
「うん、わかった」

聡い子供は彼が言わんとしていることを正確に汲み取って、漸く納得した。

「じゃあ、今日からこの子は俺の兄弟でいいんだ」
「はい」

傍らで柔らかく微笑むその人に屈託のない笑顔を見せた子供が、硝子の向こうの子供を見上げて訊いた。

「ねえ、この子の名前は?」
「あなたと同じ名前です」
「俺と?」
「はい」
「でも…」

それではややこしいではないかと、子供が眉根を寄せるのへ、

「いいんですよ、この子はそれで納得しています。でも、どうしても名前が必要だというのであれば、この子は江流と呼んであげて下さい、三蔵」

と、告げた。
その告げられた名前に子供は大きく頷いた。

「うん、わかった。江流だね」
「はい」

江流…何度もその名を呟いた後、子供は硝子の向こうで微睡む子供に、花ほころぶ笑顔を見せた。

「よろしく、江流。俺は三蔵な」

小さな手で硝子に触れた。

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