√ (from Keep your vow)
白い病院のベットで悟空は、数学の問題集と格闘していた。

退院したら高校へ通うのだ。
ろくに学校へなど通ったことは無いが、それでも人並みなことは経験させてやりたいという親の考えで、受験勉強も入学試験も経験した。
特別措置ではあったが、公立の高校に在籍している。



通えない間の先生は、三蔵。



口は悪いわ、すぐに殴るわ、病人相手でも手加減無しの鬼の家庭教師。
大好きで、大切な悟空の恋人兼主治医。

規則正しいリズムを刻む心臓の鼓動が、嬉しい。
まだ、走ることも歩くこともままならないが、それでもこの白い世界から明るい外の世界へ行けるようになったのだ。



悟空の知らないことがたくさん待っている。



が、その前に遅れがちな学力を、普通の高校生並みに引き揚げねばならない。
だから、リハビリと検査と体調管理を兼ねて、勉強のリハビリもしなければならないのだ。

「…えっと、この√がこうなるから…χは、えっと…うんと…う゛ーっ」

頭を捻るが、どうしても分からない。
死ぬほど苦手な因数分解、連立方程式。

数字と√と文字式に公式の海に溺れてしまいそうだ。
考えるたびに頭痛がする。
果ては、三蔵が約束通り治してくれた心臓まで痛くなってくる・・・気がする。

「さんぞ、わかんねぇって…」

傍らの三蔵を振り返れば、夜勤明けで疲れているのか、備え付けのパイプ椅子に座ったまま眠っていた。
読みかけの本が、膝の上からずり落ちそうだ。

「…疲れてるんだ。ごめんな」

激務の医者の仕事と悟空の相手。
しなくてもいい家庭教師。
秀麗な美貌を微かに彩る疲労の影。

自分は三蔵の負担になることばかりだ。
だから、元気になったらたくさん三蔵のために、何かをしてあげたいと思う。
今は、身体を健康な状態にすることが、何よりの三蔵へのお礼だから。
そんな思いを封印して、元気になる努力をするのだ。

「大好きだよ、さんぞ。ありがと」

小さく呟いて、悟空は幸せそうに笑った。

窓からはいる光は晩春の色を運んでくる。
悟空は、午後の陽ざしに微睡む三蔵の姿をいつまでも眺めていた。

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