階 段
何処までも続く階段。
長くて遠い行く先。

大きな門を潜って、前を歩く三蔵の後ろを付いて行く。
身体に伝わる不思議な気配。
知っているような知らないような、そんな気配。

立ち止まって朧に霞んだ周囲を見回していたら、三蔵の声が上から聞こえた。
慌てて追いかけると、すぐ目の前に心配そうな紫暗が俺を見下ろしていた。
それに、何でもないと笑いかけると、くしゃって頭を撫でられた。



大丈夫、不安なんか何にもないよ。



でも・・・



三蔵の法衣の袂をそっと掴めば、歩き出した三蔵が振り返った。
俺がぱっと、手を離すと、小さく息を吐いて、

「いいから掴んでろ」

そう言ってくれた。

「…うん」

俺は小さく返事をして、もう一度法衣の袂を掴み直す。
それを待って、三蔵はまた歩き出した。




何処まで続くんだろう。
振り返れば、来た道は朧に霞んで。
見上げれば、行く先は見えない。

足下の階段は綺麗な灰色の石を積んだもの。
ぴかぴかに磨かれて、光っている。

何も音のしない空間に、三蔵と俺の足音が静かに響く。

登る先には、三仏神という神様が居るって、三蔵は言っていた。
俺に会いたがっているって。
だから、連れて行くんだって。
でも、俺は三仏神なんて知らないって、三蔵に言ったら、

「俺が拾ってきたから、興味があるんだろ」

と、呆れたような顔をしていた。
三蔵が偉いお坊さんだから、神様も気になるんだろうか。
そんなことを考えてしまった。




登る階段。
三蔵の背中。
握った袂。
朧な景色。




何も言わずに歩いていた三蔵の足が止まって、俺を振り返った。

「おい、もう着くから横に来い」

そう言って、俺の手を袂から離す。
俺は言われるままに、三蔵の横へ階段を一段上がる。
すると、三蔵が俺の腕を掴んでまた、歩き出した。
と言ってもほんの五段ほどで。

周囲を覆っていた霧が吹き払われたような錯覚を起こすほど、辿り着いたそこは色鮮やかだった。
色とりどりに咲き乱れる花、太陽の明るい光と青い空。
そして、目の前にそびえ立つ朱塗りの巨大な門。

「…ふぇ…」

ぽかんと見上げていると、三蔵が掴んでいた腕を離した。
そして、

「行くぞ」

と、静かに先へ行くことを促す。
俺はその声に三蔵の方へ顔を向けた。

「ちゃんと付いて来いよ」

そう言って、一歩を踏み出した。
俺も三蔵に遅れないように一歩を踏み出した。

目の前の朱塗りの門が、音もなく開いて行く。
その中へ三蔵と一緒に歩みを進める。
神様と出会うために。




遠い記憶の彼方の人々との知らずの再会。

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