はさみ |
気が付くと首筋に手をやっているその姿を見るたび、背中に揺れていた大地色の尻尾を懐かしむ自分に、三蔵は小さな笑みを零した。 悟空は窓辺に持っていった椅子に座って明るい外を見つめていたが、その手は無意識に首筋を撫でていた。
そんな昼下がり。
笙玄が何かぶつぶつ言いながら、寝所へ入ってきた。 「何してんの?」 戸棚を引っかき回していた笙玄が、手元を覗き込んできた悟空に驚いた顔を向けた。 「何か探してんのか?」 悟空の返事に笙玄は、そうですかと、小さなため息を吐いて、 「向こうの仕事部屋に置き忘れているのかも知れませんね」 パタパタと、部屋を出て行った。
「おい」 笙玄の気配が去ってから、三蔵は長椅子に座ったまま、戸棚の傍から動かない悟空を呼んだ。 「な、なに…?」 はっとしたように顔を上げ、ぽてぽてと三蔵の元へ近づく。 「さん、ぞ…?」 ふわりと包まれるように抱かれて、悟空は不思議そうに三蔵を呼んだ。 「いい加減吹っ切れ。できねぇのなら、また、伸ばせ」 もぞもぞと三蔵の腕の中を動いて、悟空は三蔵の膝に登ると、ぎゅっと、その首に抱きついた。 髪を短くしてから何かを捨てたような気がしてならない。 そう、三蔵は言ったではないか。 無くした過去と今の自分を繋ぐモノだと思い込んでいた心が確かに軽くなったはずなのに、想いは募るのだ。 「お前、全部無くした気になってんじゃねぇぞ」 泣き笑いの顔を上げた悟空の鼻先に、三蔵は口付けを落とした。 「…さ……」 そう言って三蔵は喉を鳴らして笑うと、むくれる悟空の耳に唇を寄せた。 「…さんぞの…バカ…」 消え入りそうな声が返ってきたのだった。
それからすぐ、ハサミが元の場所に戻っていたとか。 |