電光掲示板 (from Get out)
ぼんやりと窓の外を眺めては、小さなため息を吐く金色の天使。




不時着した星の最後の生き残り。
純白の翼と黄金の瞳を持つ異星の少年。




三蔵は星への帰還の道すがら、悟空に自分の生まれた星の話や現在住んでいる星の話を映像を交えて語って聞かせた。
最初は何でも珍しいのだろう、好奇心にその金眼を輝かせて三蔵の話を聞いていたが、三蔵が見せた街の様子や人々の暮らしを見てからため息ばかりを吐くようになった。



原因は簡単なこと。



三蔵の住む世界の人間は、皆背中に翼など持ってはいないのだ。
悟空の住んでいた惑星では、今と逆の状態だったのだ。

「…ねえ、俺…」

何かを言いかけては口を噤む悟空に、三蔵は何と声を掛けて言いものか考えあぐねていた。
そんな時、連絡の途絶えた三蔵の船を捜しに来た捜索隊と合流することができた。

スクリーンは故障中だと偽って、音声だけで会話をする。
そんな三蔵の様子を悟空は、操縦室の片隅でびっくりした顔を張りつかせていた。

『…事故の詳細は後で聞くとして、流された宙域には確か、赤色巨星があったはずだが、大丈夫だったか?』

「何とか引き込まれずにすんだ」

『それはよかった。で、それ以外に変わったコトは無かったか?』

一瞬、三蔵は悟空を振り返った。
その紫暗に、不安に揺れる金瞳が映る。

「いや、何も。シルドの件以外は、船の故障だけだ」

『ならいい。あと四十五時間ほどでベルシオだ。後で元気な顔を見せてくれ』

「ああ…」

音声だけの会話が終わると、三蔵は通信機のスイッチをパワーごと切った。
そして、大きく息を吐くと、シートに身体を深く沈めた。
その疲れた様子に、悟空はそっと声をかけた。

「…俺のこと、言わなくて良かったのか?」
「ああ、いいんだ」
「でも…」

言い募ろうとする悟空の方を振り返って、三蔵は黙らせると、悟空に言い聞かせるように、その実は、悟空を自分以外の人間に見せたくないという思いも掛けない己の独占欲に、正当な理由を付けるために、三蔵は口を開いた。

「いいんだよ。お前を見た連中は、きっと大騒ぎする。そして、お前は衆人環視のもと見せ物よろしく引き回され、何故羽が生えているのか、どうして飛べるのか、いじくり回される。お前の意志など関係なくな」
「じゃあ…三蔵とも会えなくなる?」
「当然だ」

頷く三蔵の言葉に、悟空の黄金は見開かれ、瞬く間に透明な雫が溢れ出した。

「お、おい…」
「…だ…やだ…三蔵と離れるなんて俺、絶対やだ…」

泣き出した悟空の様子に、どれ程悟空が心細く、不安だったのか、そのことに三蔵はようやく気が付いた。
星への帰還と修理した箇所をだましだましの航海に、無理矢理連れ出した悟空のことまで気が回らなかったのだ。
こうして泣かれて初めて、悟空の気持ちに気が付く自分が、情けなかった。

三蔵はシートから立ち上がると、悟空の華奢な身体をそっと抱きしめた。
背中に回した手が触れる純白の翼が、震えている。

「悪かったな…」
「三蔵ぉ…」
「大丈夫だから、泣くな」
「本当に?」

泣き濡れた顔を上げて、悟空が訊いてくる。
その涙に濡れて光る黄金に誓うように、三蔵はしっかり頷いた。

「離さねぇよ」
「…ホント?」
「ああ、本当だ」
「うん…」

何度も確かめて、ようやく悟空ははんなりとした笑顔を浮かべた。

その笑顔を見ながら、三蔵はどうやって悟空を船から降ろすか、その思考をフル回転させ始めた。

金色の天使を独り占めするために。

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