荒 野
熟した果実のような夕陽が地平線の彼方にその身体を沈めてゆく。
遮るモノのない広大な空を金色と橙色に染め、暗紫と濃紺の裳裾を引いて、太陽がその身を沈める。

真っ直ぐにその姿を見つめる少年の瞳は、黄金色に輝き、その額を諫める金が王冠のような煌めきを放つ。
夕陽が残す名残の風に、少年の癖のある大地色の髪が揺れ、纏うマントが翻った。

旅立って何度こんな光景を見ただろう。
大事な人と一緒に見たことも、気の置けない人と見たことも、優しい人と眺めたことももう数え切れない。
それでも、偶に、本当にごくたまに、見慣れた夕陽の姿が、真新しく見えるのだ。

暗く、湿った世界から見つめる、切り取られた世界の荒野に沈む夕陽。
夜の帷が全てを覆い隠すまでのその短い間、鮮烈に、温かく、穏やかに、色鮮やかに世界を照らしていた。
その光りに少しでも触れたくて、身体に留めておきたくて、手を伸ばした。
この胸に掻き抱いた。
けれど、光りはこの腕をすり抜けて、遙か遠い世界の端に逃げていってしまう。
追いかけて、追いついて、裾を握りしめたくて。
叶わぬ願いに大地に詰めを立てた。
求め続ける想いが血を流すほどに。
涙すら流れることも忘れるほどに。

追い求め、恋い焦がれたあの時───今は遙か遠い記憶のはずなのに、不意に少年の心を波立たせる。

「……大きい…」

眩しげに金瞳を眇めて、堕ちてゆく太陽を少年は飽きることなく、見つめ続けた。
やがて、最後の名残が地平の彼方へ消えた時、少年の背後から声が聞こえた。

「行くぞ…」

踵を返す砂を踏みしめる擦れる音に少年は、ふわりと笑うと声の主の後を追った。
後には、夕陽が忘れた風が、乾いた大地に小さな渦を巻いていた。

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