スカート
ひらひらと舞う綺麗な布。
少女が、くるっと廻るとふわりと広がる。
綺麗な色と綺麗な模様。
ふわり、ひらひら廻って広がる。

宿を取った街の祭りの夜。
祭りの会場は宿から見下ろせる広場。
そこで繰り広げられている少女達の踊りを見つめていた。

花が踊る。
色が踊る。

「悟空、ココアは如何ですか?」
「…うん…」

八戒の差し出すマグカップを受け取りながら、悟空の視線は祭りの踊りから離れない。
そんな悟空の様子に八戒は小さく笑うと、その場を離れた。
悟浄は部屋の中程にあるテーブルに座って、悟空の小さな背中を半ば呆れた顔で見つめいた。

「好きだねぇ、小猿ちゃんは」
「そうですね。何が気に入ったのか熱心ですよね」
「三蔵サマは?」
「まだ、戻っては来れないみたいですよ」
「あっそ…」

三蔵は街に入ってすぐの所に建つ寺院に、呼ばれて出掛けていた。
危険な旅ではあったが、偶にこうして三蔵法師の公務が入る。
そんな時、三蔵は悟空を初め、八戒や悟浄は連れて出掛けない。
だから、今回も一人で出掛けている。
出発は、三蔵の仕事が終わってからということだが、その間は三人の休暇ともなった。

開け放った窓から流れてくる祭りの声は賑やかで、悟空を誘っている。

「なあ、見に行ってもいいかな?」

振り返って二人に問えば、お互いの顔を見合わせて、すぐに返事が返ってきた。

「いいですね」
「いいねぇ」
「じゃあ…」
「宿の前だけなら」
「俺たちの傍を離れるなよ」
「うん!」






間近で見る踊りは本当に夢のようで、悟空はその金眼を閃かせて見つめていた。
と、側に居た人間が悟空に気が付き、声を掛けてきた。

「嬢ちゃん、アンタもこれに着替えて踊ってお出で」
「へっ?」

きょとんとする悟空の手に綺麗な衣装を渡し、腕を取ると、その人は宿の女将に声を掛ける。
助けを求めて八戒と悟浄の姿を捜したが、踊りに夢中になっている間にはぐれてしまったらしく、近くに姿は見えない。

「女将、この嬢ちゃんも混ぜてやってくれよ」
「あ…あの…」

悟空が言い訳をする前に、悟空の身体は衣装と共に女将の手へ渡された。
そして、あっという間に服を剥がれ、衣装を付けられる。

「お、俺、男だってば」

やっと、話が出来た時には、衣装が纏われていて。

「そこいらの娘ッ子より似合うよ」
「おばちゃん!」

顔を赤くして叫んでいる所へ、聞き慣れた声が聞こえた。

「何やってんだ?」
「えっ?」

振り返ればそこには三蔵が立っていて、悟空の顔は瞬時に紅に染まる。
そして、三蔵の前から逃げ出した。

白いミニ丈のボーンネックのブラウスに、様々な黄色い色の花が刺繍された幾重にも生地を重ねたシフォンのスカート。
華奢な身体と大きな金色の瞳が映えてよく似合っていた。

三蔵は軽く瞳を眇めた後、部屋に駆け戻った悟空の後を追った。






部屋へ戻ってみれば、窓際のベットがこんもりと盛り上がり、掛布の隙間からスカートの裾が見えていた。

「おい、悟空」

ため息混じりに名前を呼べば、ベットの盛り上がりが、小さく震えた。
三蔵はベットに近づくと、盛り上がりの傍に腰を下ろした。
そして、ゆっくりと煙草に火を付ける。

窓から聞こえる祭りの賑わいは、最高の盛り上がりを伝えてくる。

煙草二本分、待った後、何の反応もないベットの盛り上がりを包む掛布を思いっきり引きはがした。

「…やっ!」

咄嗟のことに顔を隠せない悟空。
その頬の涙に、三蔵は小さく舌打つ。
ぱっと、三蔵の前から逃げ出そうとした悟空の腕を掴むと、その胸に三蔵は抱き込んだ。

「…やだっ…離しっ……」

腕を突っぱねて、身体を離そうとする悟空の後頭部を捕まえて、三蔵は唇を重ねた。
それでも逃げようとする悟空の抵抗を奪うように、角度を変え濃厚な口付けを与えた。

「…ぅう…んっ……ぁ…」

甘い吐息が零れてようやく、悟空を解放する。
ベットに座り込んだ三蔵の胸に顔を埋めたまま、悟空はぽつりと呟いた。

「…綺麗だったんだ…夢みたいで……」
「そうか」
「うん…」

きゅっと三蔵の背中に回した手が、法衣を掴む。
耳元に唇を寄せて、三蔵は囁いた。
その言葉に悟空の項まで真っ赤に染まる。
そして、

「…さんぞのスケベ」

と、くぐもった声が聞こえた。

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