小指の爪 (parallel) |
左の小指の爪に真っ赤なマニキュアを塗った。 願掛けを始めた時に塗り始めたマニキュア。 そう、三蔵が帰って来なくなってもうすぐ一年。 俺が家から出なくなって明日で半年。 ふらりと何も言わずに三蔵が出掛けた時、俺は学校で期末試験の最後の教科と戦っていた。 その日、朝から俺は学校に行きたくなくて、のろのろと支度をしていた。 「ちんたらしてねえで、さっさと食え」 くわえ煙草でチーズとウィンナーの入った三蔵特製のスクランブルエッグとミルクがたっぷりと入ったカフェオレ、それと焼きたての分厚い食パンを俺の前に並べながら三蔵が睨んでくる。 「どっか具合が悪いのか?」 ひやりと、おでこに触れてくるのに俺は首を振って、 「違う…ちょっと疲れてるだけ」 って、笑った。 「日頃からちゃんとやっとかねぇから、自転車操業になるんだよ」 言われてぐっと言葉に詰まった。 「試験が終わったらどっか行くか?」 って、俺の顔覗き込んで笑った。 「えっ?マジ?」 疑えばそんな言葉が返ってきて、俺は大あわてで首を振った。 「なら、さっさとするんだな」 って、煙草を灰皿に押し付けた。 それが最後にかわした三蔵との会話になるなんて想いもしなかった。
学校から帰ると三蔵の姿はなくて、机に昼ご飯が置いてあった。 「…さんぞ、まだ…帰ってないんだ…」 寝ぼけた頭で考えても何も思いつかなくて、俺はパジャマに着替えて、ちゃんとベットに潜り込んで眠ってしまった。
結局、三蔵はその日から今日まで帰って来ない。 そうしていつの間にかひと月経ち、ふた月経ち、半年になった。 考えてみれば、三蔵の仕事が何だったのか、俺は何も知らなかった。 「ねえ…今、何してるの?何処にいるの?…さんぞ…」 三蔵のシャツを抱き締めて蹲り、俺はいつの間にか眠ってしまった。 どれぐらい眠っただろう、人の気配に目が覚めた。 「…誰?…八戒?ごじょ…う…?」 振り返った先に立っていたのは─────
明日、除光液買ってこなくちゃ。 |