釣りをする人

「…えっと…缶詰が三箱…これは夕方に宿におっちゃんが届けてくれる」
「ああ」

三蔵が頷けば、悟空は買ったモノをひとつづつ思い出しながら三蔵と確認を続けた。
堤防沿いの道は道沿いに植えられた街路樹が涼しげな影を落とし、川風が暑さを和らげている。
買い出し当番の三蔵と悟空は、その道を山のような荷物を両手一杯に抱えて歩いていた。

「次が、米と小麦粉…醤油、みそ、砂糖に塩」
「お前の持ってる袋に入ってる」

三蔵の言葉に、悟空は思い出したように頷いた。
滲んだ汗が川風に触れて少しの冷たさを伝えてくれる。
ゆっくりと歩きながら川に視線を移せば、腰まで川に入って釣りをする人の姿がちらほら見えた。

「何が釣れるのかな?」

隣を歩く三蔵を伺えば、

「フナかコイでも釣れるんじゃねえか」

と、気のない返事が返ってきた。

「ふうん」

それに悟空も気のない返事を返して、また、買ったモノを確認すべく、品物の名前を上げ始めた。
買い忘れがあると、また、買い物に出掛けないといけないからだ。
今回の宿は、街から離れた場所にあり、買い出しなどの為に商店街へ出るのに小一時間ほど歩かなくてはならなかった。
夏間近の暑い陽差しの中、また小一時間かけて歩いて出掛け、もう小一時間かけて宿に戻ることはしたくなかった。
だから、真剣に買ったモノを列挙して、買い忘れがないかを確認するのだ。

「ジャガイモとサツマイモ、ニンジン、それからぁ…」
「乾し肉とハム、ソーセージだ」
「そうそう…で、ミネラルウォーターが五箱だった?」
「合ってる」
「んで、三蔵の煙草と悟浄の煙草と俺のおやつ」

嬉しそうに笑えば、三蔵が呆れた笑いを零す。

「お前のおやつはいらねえ」
「…んでだよ」

三蔵の言葉に膨れれば、

「荷物になる」

と、当然だと言わんばかりの答えが瞬時に返される。

「じゃあ、食料食い尽くしてもいいんだ」

にっと、笑って伺うように言葉を返すと、三蔵は眉間に皺を寄せて暫く考えたのち、大きなため息と一緒に

「……わかった」

と、笑った。

「やりぃ」

勝ったと楽しげに笑う悟空に、三蔵は続きを促す。

「で?」
「あ、そっか。あとは…なんだっけ?」
「知るか」
「むぅ…」

山のような荷物を一端、地面に置いて、悟空は八戒から渡された買い物リストを広げた。

「…ぇっと…あ、そうそう、包帯、ガーゼ、消毒薬に傷薬と絆創膏。それと風邪薬と解熱剤」

リストの最後の方を読み上げる。
それを傍らから三蔵が覗き込み、顔を顰めた。

「洗剤に石鹸、歯磨き粉と歯ブラシ……最後に…」

三蔵が顔を顰めていることに気付かず、悟空はリストの最後に書かれた品物の名前を読み上げかけたまま固まった。

「ちゃんと買ったから読むな」
「……うん」

頷く顔は項まで赤く染まっていた。
三蔵は空いた手でそんな悟空の頭を軽く叩くと、

「行くぞ」

と、声をかけ、歩き出した。
パタパタと手で顔を扇ぐと荷物を抱え直して、悟空は三蔵の後を追った。

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