ポラロイドカメラ
綺麗なものを撮りたいと思った。

花だとか草だとか空や雲や樹、太陽や月。

たくさん綺麗なものを残したいと思った。




「三蔵?」

小首を傾げて悟空は三蔵が覗いているカメラ越しに三蔵を呼んだ。
が、三蔵は答えを返すことなく、カメラのファインダーを覗いている。

「なあ…それ、何?」




綺麗なものを撮りたいと思った。

金色に輝く宝石だとか、柔らかく揺れる大地色の髪だとか、幼い表情や稚い寝顔、華やぐ笑顔。

たくさんの綺麗なものを焼き付けておきたいと思った。




写真など撮られた事のない悟空に、撮られるという意識はない。
三蔵が切るシャッターの音に小首を傾げ、次にはほんわりと笑って。

「なあ、俺もやってみたい」

伸ばされた両手に渡す、ポラロイドカメラ。




綺麗なものが撮れると思った。

花だとか草だとか空や雲や樹、太陽や月。

たくさん綺麗なものが手元に残ると思った。




「三蔵」

呼ぶ声に振り向けば軽いシャッターの音。

「撮るんじゃねぇ」

睨めば、

「いーじゃん、俺の宝物にするんだ」

と笑って、また、レンズを向ける。




綺麗なものが撮れると思った。

輝く金糸だとか深い紫暗の宝石だとか、優しい顔とか伏せた睫毛が落とす青い影、何より柔らかな笑顔。

たくさん綺麗なものを留めておけると思った。




草原の上に散らばるポラロイドフィルム。
映し出された表情はどれも自然で、柔らかく、幸せそうで。

「…やっぱ、違う」

三蔵の煙草を吸う姿を写した一枚を目の前にいる三蔵とを見比べて不満な声を上げる。

「何、言ってんだ?」

呆れた声を掛ければ、むくれた返事が返ってきた。

「だって、写真より本物の方が、ずーっと綺麗なんだもん」
「バーカ」

額を弾いて笑えばムキになって言い募る。



ああ…実物に勝るものは何もねぇよ



それでも、綺麗だから傍に、手元に残しておきたい。
そう思う欲張りな自分に、三蔵は煙草の影で笑った。

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