コインロッカー (parallel)
コインロッカーの立ち並ぶ駅の構内。
そこに濃紺の学生服の悟空が、小さな封筒を握ってキョロキョロしていた。
そして、目的の場所を見つけたのか、悟空の顔が一瞬、輝く。

悟空は目的のコインロッカーの前に立つと、握っていた封筒から鍵を取り出した。

「……逢えますように…」

小さく祈るように呟いて、悟空は鍵を開けた。

小さく軋んでロッカーの扉が開けば、中には赤いリボンのかかった箱とクリーム色の封筒が入っていた。

「よ、かった…」

よほど緊張していたのか、今にもその場に座り込みそうになるのをかろうじて堪える。
震える手で封筒を手に取り、封を開けた。

「…さんぞ」

短い手紙の最後に綴られた名前に、指を這わせて悟空はその名前を呟いた。

三蔵と出会ったのはもう一年も前になる。
それは本当に偶然が何度も重なった出会いだった。

たまたま座った席の隣が三蔵だった。
手違いでホテルの部屋がブッキングした相手が、三蔵だった。
宅配ピザのバイトで、配達先の注文主が、三蔵だった。

何度も巡り会う偶然。
それが、いつの間にか必然となった。

三蔵は世界中を飛び回る仕事をしているらしい。
らしいとは、詳しいことを何も知らないからだ。
知らなくてもそれは平気で。
むしろ、知らない方が幸せであるように三蔵が言うから。
悟空は何も訊かなかった。

三蔵の素性も関係ない。
ただ、二人で一緒にいたい。
それだけで十分だったから。

そう告げた時、三蔵は見たこともない優しい笑顔をくれた。

三蔵が日本に戻ってくる僅かな間の逢瀬。
日本に居ても逢えない時はこの駅のこのコインロッカーが、二人の連絡手段。
海外にいる時は、国際電話かエアメイルのハガキが、悟空に届く。
一方的な連絡。
悟空から三蔵に連絡することはない。
逢いたいと願うその気持ちを持つだけで、三蔵からタイミング良くいつも連絡が入るからだ。
それでいいと思う。
自分との逢瀬が、三蔵の仕事の邪魔にならなければいいと思うから。
忙しい三蔵の気持ちの拠り所であれば、それが一番の幸せだから。
淋しいと思う前に、幸せだからだった。

今年の悟空の誕生日、どうしても仕事の都合で逢えないと悔しがっていた。
仕事なんだから気にしないでと、笑えば、甘い口付けの雨が降った。

そして───誕生日の日、届いた小さな封筒。

開封すればいつものコインロッカーの鍵が入っていた。

学校の帰り、友達の誘いも断って一目散に目指した。
目的のコインロッカーに辿り着くまでに、何度、転びそうになったか。

逸る気持ちと共にその身に生まれる緊張。
諦めていた気持ちがまた、頭をもたげて。
淋しさが生まれて。

目的のコインロッカーの前に立った時には、何故か心臓が口から出そうなほど緊張してしまっていた。

本当に…想いを告げた日のように。

悟空は手紙をたたんで封筒にしまい、箱に手を伸ばした。
そして、リボンを解いて開ける。
中には指輪を入れるようなビロードの化粧箱。
開いて、悟空はその瞳を零れそうなほど見開いた。

「三蔵……ありがとう…」




───離さず、いつも傍に

お前の傍らに在ることを願って

誕生日おめでとう

三蔵

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