毀れた弓 |
足りないとこんな夜は思う。 あの日、俺が三蔵の前で怪我をしたあの日から足りない。 何かが欠けてこぼれ落ちてしまった。 悟浄は放っておけと言い、八戒は今は離れていることが必要なのだと言った。 きっと、そうなのだろう。 けれど、どこかで思ってる。 三蔵と俺の中で何かが欠けたんだって。 三蔵はああ見えて酷く脆い人だ。
それはまるでぴんと張った弓の絃。 それはまるで溢れそうな程、水を湛えた盃。
そうならないように俺は頑張って来たはずで。
「……当たんなくてもいいのに」 呟いてみたところで何も変わらない。 「何処にも行かないっていったくせに…」 と、あの時笑った三蔵を思い出す。 「……さんぞの、ばか」 小さく吐いた悪態が風に攫われた。 |